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「このまま産んでもいいの?」
「当り前じゃないか、大事にしてよ。そうだ、お店は辞めよう。僕の働きで暮らそう、安月給だけど何とかなるさ」
「義明」
「恵子」
二人は抱き合って愛を確認した。
恵子の腹は西瓜を隠したように膨らんでいた。臨月である。
「今日は遅くなるかもしれない。子供のために働かないと」
恵子には分かっていた。女の勘である。若い義明が性欲を我慢することは難しと恵子も理解している。
「お前の名前は何にしようかな、男なら義明の一字を取って義男がいいかな。女の子ならやっぱり義明の一字を取って義美がいいかな」
恵子は腹に手を当て話し掛けていた。
「三度目の正直だよ。二人のお兄ちゃんかお姉ちゃんの分までお前は大きくなるんだよ」
母子でなければ分からない通じ合いが感じられる。
「お待たせ」
義明はレストランを予約していた。
「遅い。もう先に飲んじゃおうかと思った」
待っていたのは会社の上司で坂口明子26歳である。二人は三か月前から交際が始まり濃密な関係になっていた。
「先週、義明を見たよ、きれいなおばさんと一緒に歩いていたでしょ、誰なの?」
「ああ、お母さんだよ」
「ええっ、お母さん、お腹大きくない?」
「ああ、新しい旦那さんとの間に僕の弟が生まれるんだ」
義明は誤魔化した。関係を面倒にしたくない。恵子が打ち明けた時は舞い上がってしまったが、冷静に考えれば認知しない方が正解だったと悔いている。
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