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「癪、行こう」
金原は恵子を抱いて癪に跨った。癪が産婦人科の車寄せに降りた。タクシーの運転手が目を見張っている。
「すいません。急患です」
ナースが対応してすぐに病室に運ばれた。10分もしないうちに赤子の泣き声が轟いた。待合室の妊婦と付き添いが割れんばかりの拍手を金原に送る。真実を伝える方が難しいと諦めて「どうも、どうも」と頭を下げた。
「最上さんのご主人ですね、立派な男の子です。おめでとうございます。先生がお呼びです」
金原は仕方なく病室に入った。恵子は人間の祖先は猿だと証明したような赤子を抱いて微笑んでいる。
「最上さんの旦那さんでいいのかな」
医師から問われた。恵子が目で『お願い、そうしといて』と言っている。
「ええ、まあ」
「まあって?」
「旦那です」
「恵子さん高齢出産ですけど丈夫な子が生まれましたよ。旦那さんの精子が元気な証拠です。早く入籍された方がいい。遅れると色々と面倒になりますよ」
「分かりました」
「5日ばかり様子を見て退院しましょう」
医師の説明を聞いて病室に移動した。
「すいませんでした」
恵子が謝った。
「いいえ、どうせ序ですから」
すこし不貞腐れている。
「旦那さんに連絡しましょう、私が行って来ます」
「待って、待ってください。どうせどこが家かもわからないでしょう」
「いいえ、あなたの脳に触れた時に記憶や寿命は全て私も共有しています。義明さんでしょ、まだ若い」
恵子は驚いた。そんなことは話していない。
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