8人が本棚に入れています
本棚に追加
「義明をご存知なんですか?」
「まあ、大体のとこは読ませていただきました」
恵子は信じられないでいる。
「あなたは公園のベンチで神に祈った。生まれた子がやさしく育つことを。それが私に通じたんです。あの祈りがなければあのベンチでお腹の子と一緒に危ないところでした」
恵子はつくづく不思議な男だと感じた。公園でお腹を触っていたから痴漢だと勘違いしてビンタを喰らわしたが助けてくれたようだ、それも生まれた子と共に。
「本当にあたしの祈りが通じたんですか?」
「はい、神はエンゼルに弱い。お腹の子が生まれなければエンゼルとして神の使いになります。でも助かった、人間として生涯を送ることになりました。それがいいのか悪いのかは母次第」
「相談に乗ってくれますか?」
恵子は金原に託してみようと思った。
「どうぞ、あなたの担当仙人金原武ですから、なんなりと」
金原が笑うと恵子も笑った。
ドアをノックすると義明が顔を出した。ハイヒールが倒れている。
「どちらさんですか?」
「奥さんの知り合いです」
義明は金原を廊下に追いやった。
「まずいんですけど今は」
義明は小声で言った。
「奥さんが立派な男の子を出産しました。母子共に健康です」
「生まれたんだ?」
義明に歓喜の表情はない。むしろ後悔の念が強い。
最初のコメントを投稿しよう!