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 放課後、家に帰ってから、巧は昨日もらったDVDをもう一度観た。  すると昨日は気付かなかった、 「お母さんは今、スキルス胃癌っていう病気と戦っています」  という言葉に気がつく。  スキルスって何かな? と思い、高校入学前に早めに買ってもらったスマートフォンで調べてみると、スキルス胃癌はとても難しい病気なのだということがわかった。  進行が速く、しかも見つかりにくい癌なのだそうだ。  検査で見つかった時には、もう手遅れになっていることも多いらしい。  そうだったんだ、と思うと、やたらと父をポンコツ医者呼ばわりしてきたことが、申し訳なく思える。  きっと父も悔しかったに違いない。  そして何より、母のことを思った。  怖くなかったんだろうか。  突然、命の時間を区切られること。  限られた時間の中で、奏と巧の二十歳の誕生日まで、毎年のメッセージをDVDにしてくれた母。  画面の中の母は、いつも毅然として優しく微笑んでいるけれど、本当は怖くて仕方なかったんじゃないだろうかと、巧は思う。  そして、「どんなことでも、たっくんのやりたい事を応援しているよ」と毎年、背中を押してくれる母の言葉が、今、本当の意味で胸に沁みた気がした。  どんな気持ちで、そのメッセージをくれたのだろう。  ――僕は本気で、自分のしたい事を考えたことがあるだろうか。  どんな人間でも、一生のうちにできる事は限られている。  突然、そのことが巧の胸に迫った。  母の想いに応えるほど、自分は真剣に自分に向き合っているだろうか。  DVDの映像は、電気の灯りが消え、ロウソクの(とも)し火だけが残った場面で終わる。  その点し火は、母が初めに()けたものだ。  ――進路のこと、お父さんと、もっとちゃんと話し合ってみようかな。  巧はそう考えながら、DVDプレイヤーのスイッチを切った。  画面が消えても、母が点けた点し火は、巧の胸にずっと残る。 - 終 -
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