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「巧くんも、次は高校生、そろそろ進路を考える頃だね。どんな仕事に就きたいか、もう決まっているのかな? どんな職業でも、たっくんが望む仕事に就けるよう願ってます」
そこで母は、さっきから画面の外で声をあげていた小さな巧を膝の上に抱き上げる。
その巧はぴったりと母の胸に寄り添って、ぎゅっと抱きしめられ、嬉しそうにカメラに手を振っている。
「だけどもし、進路のことで迷うことがあったら、お父さんやおじいちゃんたちや、新しいお母さんとよく相談して、納得いく進路を探してね」
母がよく使う「新しいお母さん」という言葉が、巧は嫌いだ。そんな人は実際にはいないし、一生必要ないと思っているからだ。
「お父さんはきっと、何があっても巧くんの味方でいてくれるから」
僕は何も迷っていないのに、と巧は思う。ただ、父が根拠もなく反対するのだ。全然味方でなんかいてくれない、と。
見終わって、父はDVDを巧に渡す。
「巧も、お母さんに産んでもらったこと、感謝しようね」
うん、と巧は頷く。
そのDVDは、巧が自分の部屋に自分で持っていていいことになっている。
リクエストしたゲームソフトは結局買ってもらえなかったから、プレゼントは今のところ、そのDVDだけだ。
でも毎年、そのDVDは巧の宝物になる。
レーベルも母のデザインで、手書きの文字で「巧くん 15歳おめでとう」と書いてある。
片付けが苦手な巧だが、毎年もらうそのDVDだけは、絶対なくさないように、本棚の一角に場所を設けて、年順にきれいに並べてある。
でも今年は、なんだか母も父の味方になってしまったみたいで、嬉しさも半減してしまう。
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