恥ずかしピアノ

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 ニ月の日曜日。近所にある市民ホールで、ピアノの発表会が開かれていた。  俺の名前は山田優斗(ゆうと)、中学一年生だ。  俺は母さんと一緒に、観客席に座って、ピアノを聞いていた。俺の右隣に、母さんが座っている。  今日、俺の妹の光(ひかる)が、この発表会でピアノの演奏をする。俺たちは、光の応援に来ていた。光は小学四年生。去年ピアノを始めたばかりで、演奏歴はまだ半年だ。  俺はホールの前方にある舞台を見つめた。舞台は観客席よりも数段高くなっていて、中央に大きな黒いピアノが置かれている。そこにかわるがわる子どもが出てきて、ピアノを演奏している。  そしていよいよ、光の演奏の番が来た。  光が舞台から出てきた。光は髪が長くて、青いドレスを着ていた。光はとても緊張していた。俺は自分がピアノを弾くわけではないのに、とてもそわそわした。  光はピアノの前に座って、鍵盤に手を置いた。今日、光が演奏するのは「忘れもの」という曲らしい。  光が演奏を始めた。しかしすぐに、光のピアノを弾く手が止まった。きっとパニックになったのだろう。俺はそんな光を見ていられなくなった。  俺はぎゅっと目を閉じた。そしてこの場所からワープして、家に帰りたいと思った。あるいは、早く光の演奏が終わってほしいと思った。  俺は隣に座っている母さんを、ちらっと見た。母さんは真剣な表情で「がんばれ、光」と呟いていた。そんな母さんを見て、俺はさらに自分が恥ずかしくなった。  すると光は冷静さを取り戻したらしく、曲の続きを弾き始めた。俺は少しほっとした。  光はそのまま演奏を終えて、立ち上がった。そして観客席に向かって、礼をした。光はやり切ったという表情をしていた。俺は光に申し訳ない気持ちになった。    それから光は袖まで歩いていき、舞台から消えた。その後俺は、他の人の演奏を聞きながら、先ほどの光のピアノ演奏について考えた。なぜ俺は光の演奏を聞いて、なぜあんなに恥ずかしくなったのだろうか。  俺は先ほど感じた恥ずかしさのわけを振り返った。  
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