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手持ち無沙汰に辺りをキョロキョロと見回していると、ちょうど私が廊下の曲がり角に立っていたものだから、向かい側から歩いてきた人とぶつかりそうになってしまった。
「あ、ごめんなさ……」
慌てて謝ろうとして顔を上げると、相手と視線が合う。
……あ、この人。
私はその人に見覚えがあった。少し癖のある黒髪に、切れ長の目。一見、クールな印象を与える容姿は、どこか近寄り難い雰囲気を醸し出している。
確か……。
私が答えにたどり着く前に、彼は視線を逸らしてそのまま横を通り過ぎていった。そして、そのまま楽屋の中へと入って行った。
「ゆき、お待たせ」
あかりが戻って来たのは、それからすぐのことだった。私は思わず、「今の人……」と口を開く。
「あ、もしかして分かった?」
「うん。確か、graceのボーカルの……」
「そう、成瀬皐。graceの二人とは高校の時からの付き合いでさ、友達のよしみでよくライブに招待してくれるんだ」
今日はちょうどスケジュールが空いていたから、せっかくだしゆきもどうかなって思って。とあかりは続けた。
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