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「新曲の歌詞?」
「うん。そろそろ仕上げないと」
私はタブレットの画面を切り替えて、歌詞が書かれているテキストファイルを表示させた。あかりがどれどれ、といった具合で画面をスクロールしていく。作詞は主に私が担当しており、作曲はあかりが行っていた。私たちは二人で活動する音楽アーティストだ。デビューからかれこれ3年。ありがたいことに、それなりに名前も知られるようになっていた。SNSの影響も大きいのか、最近は「歌ってみた動画」や「弾いてみた動画」を投稿する若い子も多い。そこから私たちのことを知って、ファンになったという人も少なくはない。
「……もしかして、煮詰まってる感じ?」
あかりが画面をスクロールする手を止めて、私に問いかける。
「うーん……まぁ、そんな感じ」
私は曖昧に返事をしながら、苦笑いを浮かべた。今私たちが手掛けている楽曲は、恋愛ソングだ。映画の主題歌として起用される予定で、その世界観に合わせた歌詞を求められている。納期も決まっているので、自分のペースだけで作業を進める訳にもいかないのだけど……。
「なんかこう……しっくりこなくて。もっとこう、違う表現がある気がする」
「違う表現かぁ……」
あかりは歌詞が書かれているテキストファイルに目を移すと、腕組みしながらうーん、と小さく唸った。
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