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こと恋愛に関しては、私よりあかりの方が適任だと思う。私は人付き合いが得意ではないし、恋愛にも疎い。映画やドラマ、漫画や小説で得た知識くらいしか持ち合わせていないので、どうも感情移入しきれないのだ。
「あ」
あかりが何か思いついたように小さく声を漏らした。私はタブレットから顔を上げて、「なに?」と首を傾げる。するとあかりは、にっと悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「ゆき、今夜時間ある?ちょっと付き合って欲しいんだけど」
「いいけど……どこに?」
「それは着いてからのお楽しみ」
「えぇ……何それ」
「いいから、いいから。ね?」
「うーん……まぁ、いいけど」
あかりの強引さに半ば押し切られる形で、私は今夜の予定を承諾した。別に断る理由もないし。何より、作詞に行き詰まっているこの状況を打開する糸口になれば、それはそれで願ったり叶ったりだ。私は手元にあるコーヒーに口を付けながら、再びタブレットの画面へと視線を落とした。いつの間にか温くなってしまったそれは、苦味だけが一層強く感じられ、思わず眉を顰めた。
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