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 ***  あかりと出会ったのは、6年前。高校を卒業して、専門学校に進学した時だった。私は昔から人と話すのが苦手で、授業以外は一人で過ごすことが多かった。そんな私に声を掛けてくれたのがあかりだった。 「ねぇ、その曲ってなんて歌?」 「……え?」  ある日の休み時間。カフェテリアの隅っこで、私が音楽を聴いていると、突然あかりが私のテーブルに手を付いて言った。いきなり声を掛けられたことと、距離感の近さに驚きを隠せず私は目を見開いた。 「あ、驚かせてごめんね」 「……いや、別に」  私はイヤホンを外して、そっけなく答えた。正直、あまり詮索されたくなかったので、少し口調が冷たくなってしまったかもしれない。当時、私はひっそりと作曲活動を行っていた。誰にも言わず、ただ自分一人で作るだけ。最初は趣味程度で行っていたけど、作った曲をネットに上げるようになってからは、徐々に再生数や評価が増えていった。……十分だった。誰かに認めてもらえれば、それだけで自分の存在価値が証明されたような気がしたから。自己満足でもいい。私は私の世界だけあれば、それでよかった。
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