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「雪村さん、だよね。いつも音楽聴いてるの見かけるから」
つい気になって、話しかけてみたの。そう言ってあかりは、人懐っこい笑みを浮かべた。不思議だった。私とあかりは、今まで一度も話たことがなかったから。それに、専攻科も組んでいるバンドグループも違うから、合同実習以外ほぼ関わる機会がない。なのにどうして、と疑問に思っているのが顔に出ていたのだろう。あかりは「あ」と思い出したように声を上げた。
「ごめん、自己紹介まだだったね。私、依浦あかり。よろしくね」
「……よろしく」
私は差し出された手をおずおずと握り返した。
……彼女のことは知っていた。1年の時、学祭のミスコンで優勝していたから。その容姿と性格の良さから男女問わず人気があり、学年でも有名だった。対して私は、クラスでも目立たない存在。友達も居なければ、特別親しい人もいない。そんな私がどうして彼女に声を掛けられたのか……。当時の私には、全く理解できなかった。戸惑う私をよそに、あかりは手元のスマホに視線を落とす。そして、一番初めに発した質問を繰り返した。
「それで、その曲ってなんて歌?」
液晶に映るタブ譜を興味津々といった具合に覗き込まれ、私は咄嗟に画面を伏せた。
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