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「……別に、普通の曲だよ」  言っても知らないと思うし、と付け加える。作曲途中の楽曲を知られるのは、あまりいい気がしなかった。何より、これ以上踏み込んで欲しくないという思いが、私を頑なにさせた。素っ気ない答えに、あかりは「ふーん?」と納得のいかない表情を浮かべる。けれど、それ以上追求はして来ず、そのまま友人の待つ席へと戻っていった。  それ以来、あかりは事あるごとに私に声を掛けてくるようになった。何かと理由をつけては、私の居るところへやって来て一方的に他愛もない会話をする。そんな関係がしばらく続いたある日。うっかり落としたイヤホンをあかりに拾われ、「あ」と思った瞬間には遅かった。あかりはイヤホンを耳に当て、流れてくる曲に耳を傾けていた。 「……この曲、すごくいい」  お世辞でも、冷やかしでもない率直な感想が呟かれる。私は思わず、「え?」と聞き返してしまった。けれど、それよりも早くあかりが「誰の曲?」と、食い気味に聞いてくる。それがあまりにもしつこかったから、私は根負けしてついに自分が作曲をしていることを白状した。――それからというもの、私はあかりから猛アプローチを受けるようになった。一緒に曲を作ってみないか、と。
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