1

8/11
前へ
/12ページ
次へ
***  あれはまだ、私が中学生の頃。  偶然耳にした曲から全てが始まった。  ――空を見上げ、願いを込めた。  星が今日も誰かを照らしてくれますようにと。  当時、日本のトップバンドとして一世を風靡していた”Mac(マック)rain(レイン)”。そのヴォーカルを務める一人の男性の歌声を聴いた瞬間、私はとてつもない衝撃を受けた。深みのある少し掠れたボイスに、そこからは想像もつかない程、綺麗で伸びやかなファルセット。ガラス細工のように散りばめられた色鮮やかな音の波に、私は生まれて初めて恋をしてしまったのだ。  それはまるで、今まで欠けていたパズルのピースが当てはまるかのように、不完全な部分が満たされて行くような……、そんな感覚だった。まだ将来の夢なんて、漠然としか考えていなかったけれど、この時の私には、不思議ともう音楽しかないという感じだった。  私もあんな風に歌いたい。  それが歌手を目指すきっかけだった。  今にして思えば、あの出会いが無ければ、私は音楽に 関わることなく生きていたかもしれない。それほどまでに、私にとっては衝撃的な出来事だった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加