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第六章
彼のアパートは通りに面しており、二階建ての二階、外階段登って一番奥、窓から通りを見下ろせる部屋が彼の部屋だった。
彼は部屋に入ると、狭い部屋でごめんなと言いながら、風呂場にお湯を溜め、風呂に入るよう勧めた。
部屋の暖房は電気ストーブしかないので、これが一番体があたたまると言っていた。
私が「あの、お風呂、先に入ってください。あなたが風邪を引いてしまいます」と言うと彼は「遠慮すんな」と私に風呂を勧めた。
洗い場が狭く、浴槽も体を縮めないと浸かれない大きさ。
二人で入ったら身動き取れないねと、真っ赤な顔をした自分の顔が鏡に写る。
恥ずかしくなって、口元までお湯に浸かる。
視線は自然とドアに集中。
入って来ないと分かっていても、見てしまう。
風呂から出ると、新しいタオルと、彼のだろう、シャツとズボンが畳んで置いてあった。
体を拭き、髪を乾かすとダブダブのシャツとズボンを履いた。
彼の匂いが、フワッと香る。
私はその香りを抱きしめた。
あの男とは全然違う。
服を着て風呂場から出ると、食事が用意されていた。
鍋が小さなテーブルに乗っており、お茶碗によそられていた。
「簡単なものだけど、体があったまるぞ。
先に食べててくれ」
彼は笑顔で言うと、風呂場に行ってしまった。
箸を取って、ホカホカ湯気が出ている野菜を口に入れる。
「美味しい‥‥」
一口で心まで温まる気がした。
涙が込み上げて来た。
やがて彼が風呂から出て来た。
涙を拭いて、一緒に食事をした。
彼は天使だった。
絶望から救い出してくれた天使。
今でもそう思っている。
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