第八章

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第八章

「今度はお前の番だ。アオイ。 お前の事が知りたい」  彼なら私を軽蔑しない。  母さんのように汚いものを見るような目つきで私を見る事はない。  そう思って全てを彼に話した。  彼は黙って、ウンウンと頷いて、言った。 「これからは、俺が守ってやるよ」  彼は、泣きそうな私を抱き寄せると、唇にキスをした。  私は彼にしがみついた。  涙が止まらなかった。  幸せな気分だった。  でも、切なさの方が強かったかも知れない。  ずっと彼の側に居られる訳じゃない。  もう、帰らなければならない時間になっていた。    世の中の普通の恋人はいいな。  普通だったらお泊まりが出来るのに。  羨ましい。  お泊まりして、そのうち一緒に暮らしたりなんかして‥‥。  彼と暮らしている自分の姿を想像して、照れ隠しに「ふふん」と笑った。  妄想は自由だ。  誰にも咎められたくはない。  しかし、妄想はすればするほど期待は大きくなる。  大きくなればなるほど、裏切られた時の絶望は大きい。  会えば会うほど切なくて。  毎回、これが最後、と思いながら会いに行く。    母さんが、私と男の人との恋愛を許す筈がない。  母さんの系統する宗教では禁止されている。  彼を想う事さえ、穢らわしいと言うくらいだ。  母さんと父さんは両家の思惑で結婚したようなもので、そこに恋愛感情というものはなかったらしい。  割り切った関係というのか。  お嬢様だった母さんは、何でも自分の思い通りに動かなければ気が済まない性格だった。  父さんも窮屈だったのだろう。  大人でも耐えられないその重さを、子供の私にぶつけたのだ。  だからと言って許させる事ではない。  そんな重さに耐えられるはずもない私は、声に出せない悲鳴を上げた。
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