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「これ、少し難しいですよね。同じ表現をちょっと前に医療誌で見かけたので、メモしてあるんです」
そう言うと、彼女はバッグからノートを取り出し、パラパラとページをめくる。
見つかったのか、『どうぞ』と手渡してくれた。
「へぇ、こういう訳なんだ・・確かに、これだとしっくりきますね」
「私も分からないことだらけなんですけど、新しい表現や難しい言い回しはメモしてあるので、また何かあればいつでも」
彼女のノートは、あまり見かけないような珍しい英文が並んでいて、オリジナルのメモがあちこちに書かれていた。
勉強熱心なんだな・・と思うと同時に、気にかかることがあった。
「平嶋さん、その後、片頭痛はどう?」
「あ・・えっと・・」
歯切れの悪い彼女に、俺は思わず笑ってしまった。
「こんなに頑張ってたら、頭痛とも仲良くなるよね・・。だけど、ほんの少し習慣を見直すだけで、だいぶ改善されると思います」
「え、本当ですか? それ、ぜひ教えてほしいです・・けど、お時間無いですもんね」
残念そうな彼女を見て、よっぽど頭痛が辛いのだろうと思った。
時間・・か。
「平嶋さん、今日はずっとこの大学病院に?」
「はい、白坂教授の論文発表が近いみたいで、この後原稿をいただいて添削するんですけど、午後にまた、その内容を打合せすることになっています」
「じゃあ、終わるの待ってますよ」
さらりと、自分でも驚きのセリフを口にした。
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