1.空気感

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「これ、少し難しいですよね。同じ表現をちょっと前に医療誌で見かけたので、メモしてあるんです」 そう言うと、彼女はバッグからノートを取り出し、パラパラとページをめくる。 見つかったのか、『どうぞ』と手渡してくれた。 「へぇ、こういう訳なんだ・・確かに、これだとしっくりきますね」 「私も分からないことだらけなんですけど、新しい表現や難しい言い回しはメモしてあるので、また何かあればいつでも」 彼女のノートは、あまり見かけないような珍しい英文が並んでいて、オリジナルのメモがあちこちに書かれていた。 勉強熱心なんだな・・と思うと同時に、気にかかることがあった。 「平嶋さん、その後、片頭痛はどう?」 「あ・・えっと・・」 歯切れの悪い彼女に、俺は思わず笑ってしまった。 「こんなに頑張ってたら、頭痛とも仲良くなるよね・・。だけど、ほんの少し習慣を見直すだけで、だいぶ改善されると思います」 「え、本当ですか? それ、ぜひ教えてほしいです・・けど、お時間無いですもんね」 残念そうな彼女を見て、よっぽど頭痛が辛いのだろうと思った。 時間・・か。 「平嶋さん、今日はずっとこの大学病院に?」 「はい、白坂教授の論文発表が近いみたいで、この後原稿をいただいて添削するんですけど、午後にまた、その内容を打合せすることになっています」 「じゃあ、終わるの待ってますよ」 さらりと、自分でも驚きのセリフを口にした。
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