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「えっ・・。でもいつ終わるか分からないし、待っていただくのも・・」
恐縮する彼女に、俺は首を横に振る。
「多分、今日を逃したらまたいつになるか分からないし、向こうの病院じゃなかなか時間も取れないので」
「・・・・本当に、何時に終わるか分からないですよ?」
「大丈夫です。普段時間が取れなくて読めない文献が溜まってるので、僕も助かります」
そう言った俺に、彼女が小さくため息をつく。
これ以上、遠慮しても無駄だと気づいたらしい。
「ありがとうございます。19時過ぎるようなら連絡します。えっと・・でも西島先生の連絡先が・・」
「あ・・ちょっと待ってて」
俺は財布から彼女の名刺を取り出し、スマートフォンから電話を掛けた。
彼女のバッグが震える音が聞こえる。
「それ、僕の番号です」
彼女もバッグからスマートフォンを出し、着信を止めて登録したようだった。
「ありがとうございます。じゃ、そろそろ行きますね。あまりのんびりしてると、白坂教授に怒られちゃうので」
「はい。僕も続きをやらないと」
彼女をドアの前まで見送る。
そのまま行くのかと思ったら、くるりと振り返った。
「先生、ネクタイ姿も素敵ですね」
それだけ言うと、彼女は外科に続く廊下に消えていった。
素敵ですね・・って、言った?
俺が?
誰もいない廊下を、しばらく眺めていた。
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