1.空気感

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「えっ・・。でもいつ終わるか分からないし、待っていただくのも・・」 恐縮する彼女に、俺は首を横に振る。 「多分、今日を逃したらまたいつになるか分からないし、向こうの病院じゃなかなか時間も取れないので」 「・・・・本当に、何時に終わるか分からないですよ?」 「大丈夫です。普段時間が取れなくて読めない文献が溜まってるので、僕も助かります」 そう言った俺に、彼女が小さくため息をつく。 これ以上、遠慮しても無駄だと気づいたらしい。 「ありがとうございます。19時過ぎるようなら連絡します。えっと・・でも西島先生の連絡先が・・」 「あ・・ちょっと待ってて」 俺は財布から彼女の名刺を取り出し、スマートフォンから電話を掛けた。 彼女のバッグが震える音が聞こえる。 「それ、僕の番号です」 彼女もバッグからスマートフォンを出し、着信を止めて登録したようだった。 「ありがとうございます。じゃ、そろそろ行きますね。あまりのんびりしてると、白坂教授に怒られちゃうので」 「はい。僕も続きをやらないと」 彼女をドアの前まで見送る。 そのまま行くのかと思ったら、くるりと振り返った。 「先生、ネクタイ姿も素敵ですね」 それだけ言うと、彼女は外科に続く廊下に消えていった。 素敵ですね・・って、言った? 俺が? 誰もいない廊下を、しばらく眺めていた。
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