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まだ9月になったばかりで、ようやく夜が涼しく感じられるようになってきた。
大学病院から歩いて10分ほどの裏路地に、目指す店がある。
「ここ、大通りから少し奥にあるから病院の人たちにも知られてないみたいで。だから、安心してください」
「え?」
「仕事でお世話になっている人たちが来たら、落ち着いて食べれないでしょ?」
「あ・・。実は少し気にしてました。西島先生のことを聞かれたら、どう答えればいいのかなって。『知り合い』っていうのも、違う気がして」
ホッとした顔の彼女を見て、この店にして正解だと思った。
できることなら、俺の前ではあまり緊張してほしくないから。
「さ、入りましょう」
ドアを開け、彼女を先に店に入れてから、俺も入った。
店内は相変わらずほとんどが中国人で、かなり賑わっている。
彼女と俺は、奥のテーブルに通してもらった。
ここなら、たとえ知り合いが来たとしても気づかれないだろうし、周りも、声量のある中国語が飛び交っているから、会話の内容を気にする必要もなさそうだ。
「何にしようか・・。あ、ここ見て食べられないものが無かったら、このコースにするのはどうですか?」
俺はいつも自分が食べて気に入っているコースを指差して、彼女に提案してみる。
「わ、美味しそう。これにします」
「うん。あと・・僕はアルコール飲まないからウーロン茶にするけど、平嶋さんはどうします?」
「私は・・えっと・・。ここに書いてあるジャスミンティーにしてもいいですか?」
「もちろん。じゃ、一緒に頼みますね」
オーダーを済ませると、すぐに飲み物がサーブされた。
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