1.空気感

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俺は、西島(にしじま)祐一郎。33歳。 この地域では、大学病院に次ぐ規模の総合病院で小児科医をしている。 勤務を終えて帰ろうとしたところで具合の悪そうな女性を見かけ、同い年で同期の救命医・野中 大翔がいる救急外来に駆け込んだ。 「ハ・・ル・・?」 「えっ?」 車椅子に乗った女性は、少し落ち着いたのか前を歩く大翔に向かってそう呼んだ。 呼ばれた大翔は、驚いたような声で振り返った。 顔をのぞき込み『茉祐子(まゆこ)?』と呼びかけると、女性はこくんと頷いた。 大翔の知り合いか? 「大学の同級生だ」 車椅子を押す俺に、大翔がそう言った。 「そうか、大学の・・。あ、僕は野中の同僚で西島といいます」 俺は車椅子を押す手を止め、少しだけ回り込んで声を掛けた。 彼女は俺を見上げて、力のない笑顔を見せた。 「平嶋(ひらしま)です。あの・・助けてくださって、ありがとうございました」 「あ、いえ、たまたま通りかかって良かったです。あ・・寒気はどうですか? 毛布持ってきましょうか?」 「はい・・お願いします」 車椅子の彼女を大翔に託し、俺は備品室に毛布を取りに向かった。 『ハル』『茉祐子』なんて、随分親しそうな感じだ。 同級生って言ってたけど、それ以上・・とか? ふたりの関係が気になったものの、それよりも早く彼女に毛布を届けなければと思い、救急外来のドアを開けた。
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