1.空気感

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「野中先生! すみません、こちらお願いします!」 「あー、はい。・・祐一郎、茉祐子頼む」 スタッフに呼ばれ、大翔は急患の処置に入る。 俺はひとまず彼女を温めようと、毛布で上半身をくるみ、ひざ掛けを下半身にかける。 彼女はまだかすかに震えていて、思わず手を握った。 「痛いですか? もしかして・・何か処方されている薬はありますか?」 彼女はポケットの中から、カプセルを取り出した。 ボルタレン・・。 強めの鎮痛剤だ。 「少しだけ、ひとりにしても大丈夫ですか? 薬を飲むための白湯を持ってきますね」 穏やかに話しかけたつもりだったけれど、ひとりになるのが不安なのか、彼女は俺の手を離さない。 困ったな・・。 誰か・・頼み事ができる人がいれば。 俺はこの病院の職員だけれど、日中は滅多に救急外来に来ないから顔見知りがあまりいない。 「あら? 西島先生・・どうかされました?」 たまたま俺を知っていた救急外来のスタッフが通りかかり、声をかけてくれた。 「あの・・薬を飲ませたいんですが、白湯をもらうことはできますか?」 「あ、はい、今お持ちしますね。少し待っててください」 良かった・・。 なんとか薬を飲ませ、効き目が現れるのを待つ。 薬を飲むために一旦離れた彼女の手は、なぜかまた俺の手に戻ってきていた。 気が紛れるのかと思い、断る理由も無くそのままにしていると、徐々に震えが止まり温かさが戻ってきたように感じた。
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