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「本当にありがとうございました。ご迷惑お掛けしてすみません・・お礼は改めて」
タクシーから降りると、彼女は小さく手を振って目の前のマンションに入っていった。
足取りを見る限り、このまま部屋に辿り着けるはずだ。
俺は最寄りの駅までタクシーを使い、牛丼のチェーン店に入る。
注文を待つ間にスマートフォンを確認すると、大翔からメッセージが届いていた。
薬を飲ませて仮眠させ、送り届けたところまでをかいつまんで返信する。
しばらくすると、『サンキュー、助かった』と返事が来た。
「ふたりがどういう関係か、今度聞くかな」
ひとり言をつぶやき、目の前に置かれた牛丼に箸をつける。
ふと、彼女の後ろ姿が頭に浮かんだ。
無事に、部屋まで辿り着けただろうか。
途中で倒れたりしていないだろうか。
部屋の電気が付くところまで、確認すればよかったんじゃ・・。
俺は小児科医だから、大人の女性を診察する機会は無いに等しい。
けれど、あの片頭痛はかなり辛そうだった。
「痛みが、ぶり返していたら・・」
そう口にすると、ドクン・・と胸騒ぎがした。
せめて、部屋にちゃんと戻れたかだけでも確認すれば・・。
思わず立ち上がり、食べ終わっていない牛丼をカウンターに残したまま、彼女のマンションに向かって走る。
ハァ・・ハァ・・。
この角を曲がれば、あと少し。
向こうに見える建物の603号室だと言っていた。
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