1.空気感

7/19
前へ
/108ページ
次へ
「ん? 何だろう・・これ」 外来の診察から戻ると、医局のデスクの上に可愛らしい箱が置いてあった。 包み紙を開けて中をのぞくと、美味しそうなチョコレートが何種類も入っている。 「あ、さっき女性が訪ねてきて、西島先生に渡してほしいと頼まれたんです」 「それ、いつですか?」 医局付きの事務スタッフに尋ねると、『5分くらい前かな』と言った。 おそらく・・彼女だ。他に思い当たるような人もいないし。 もしかしたら、まだ近くにいるかもしれない。 俺は医局を飛び出して、病院のエントランスに向かった。 エスカレーターを駆け下りながら、彼女の姿を探す。 あ・・。 総合受付の前を横切る彼女を見つけた。 「平嶋さんっ!!」 エントランスの自動ドアの手前で、彼女の背中に呼びかける。 「あ・・西島先生」 振り返った彼女は、俺に向かってにっこりと笑いかけてくれた。 あ、可愛い。 ほんの一瞬、世界が止まった。 「先生?」 「あ、すみません・・呼び止めて。あのチョコレート、平嶋さんですよね?」 「そうですけど・・。どうして私だって分かったんですか?」 「他に思い当たるような人、いないから・・かな」 「先日のお礼に・・休憩の時にでも食べてもらえたらと思って。あ、でもご迷惑でしたか?」 彼女は少し困ったような表情をした。 それを見て、俺はすかさずフォローする。 「んーと、患者さんからのお礼は受け取れない・・んですけど。新しい友人への差し入れとしてなら、喜んでいただきます」 彼女に笑顔が戻った。
/108ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1086人が本棚に入れています
本棚に追加