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「ん? 何だろう・・これ」
外来の診察から戻ると、医局のデスクの上に可愛らしい箱が置いてあった。
包み紙を開けて中をのぞくと、美味しそうなチョコレートが何種類も入っている。
「あ、さっき女性が訪ねてきて、西島先生に渡してほしいと頼まれたんです」
「それ、いつですか?」
医局付きの事務スタッフに尋ねると、『5分くらい前かな』と言った。
おそらく・・彼女だ。他に思い当たるような人もいないし。
もしかしたら、まだ近くにいるかもしれない。
俺は医局を飛び出して、病院のエントランスに向かった。
エスカレーターを駆け下りながら、彼女の姿を探す。
あ・・。
総合受付の前を横切る彼女を見つけた。
「平嶋さんっ!!」
エントランスの自動ドアの手前で、彼女の背中に呼びかける。
「あ・・西島先生」
振り返った彼女は、俺に向かってにっこりと笑いかけてくれた。
あ、可愛い。
ほんの一瞬、世界が止まった。
「先生?」
「あ、すみません・・呼び止めて。あのチョコレート、平嶋さんですよね?」
「そうですけど・・。どうして私だって分かったんですか?」
「他に思い当たるような人、いないから・・かな」
「先日のお礼に・・休憩の時にでも食べてもらえたらと思って。あ、でもご迷惑でしたか?」
彼女は少し困ったような表情をした。
それを見て、俺はすかさずフォローする。
「んーと、患者さんからのお礼は受け取れない・・んですけど。新しい友人への差し入れとしてなら、喜んでいただきます」
彼女に笑顔が戻った。
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