1.空気感

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「西島先生、いま休憩中なんですか?」 「はい。平嶋さんは? 診察・・じゃないですよね?」 「はい。私も仕事の合間なんです。これからクライアントさんと約束があるんですけど、移動中に美味しそうなチョコレートが目に入って。先生のおやつにどうかなって思ったから」 彼女は、背中まである明るいブラウンヘアをひとつにまとめ、大柄のチェックシャツにスリムなパンツ姿で、大きめのバッグを肩にかけていた。 大翔と同じ大学だと言っていたけれど、医師・・ではないのだろうか。 「平嶋さんは、大翔や僕と同業?」 「いえ、私は違います。フリーランスで医療翻訳をしているんです」 そういって、彼女はクリーム色の名刺を取り出す。 受け取って見てみると、メインは外科や救急医療で、小児は彼女の守備範囲ではないらしい。 「小児医療は範囲外か・・残念」 「あ・・先生は小児科なんですよね。さっき総合受付で聞いてびっくりしました。てっきり救急かと思って。小児は・・機会が無かったんです。もし良ければ、今度何かお手伝いさせてください」 「本当ですか? じゃあ連絡します。ここに書いてあるアドレスに、メールすればいいですか?」 「えっと・・先生なら・・」 彼女は俺の手から名刺を奪い、バッグから取り出したペンで裏に何か走り書きをした。 改めて受け取ると、そこには数字が羅列されている。 「これ、私の連絡先です。直接、電話してくだされば」 それじゃ、と彼女はエントランスから出て行った。
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