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「西島先生、いま休憩中なんですか?」
「はい。平嶋さんは? 診察・・じゃないですよね?」
「はい。私も仕事の合間なんです。これからクライアントさんと約束があるんですけど、移動中に美味しそうなチョコレートが目に入って。先生のおやつにどうかなって思ったから」
彼女は、背中まである明るいブラウンヘアをひとつにまとめ、大柄のチェックシャツにスリムなパンツ姿で、大きめのバッグを肩にかけていた。
大翔と同じ大学だと言っていたけれど、医師・・ではないのだろうか。
「平嶋さんは、大翔や僕と同業?」
「いえ、私は違います。フリーランスで医療翻訳をしているんです」
そういって、彼女はクリーム色の名刺を取り出す。
受け取って見てみると、メインは外科や救急医療で、小児は彼女の守備範囲ではないらしい。
「小児医療は範囲外か・・残念」
「あ・・先生は小児科なんですよね。さっき総合受付で聞いてびっくりしました。てっきり救急かと思って。小児は・・機会が無かったんです。もし良ければ、今度何かお手伝いさせてください」
「本当ですか? じゃあ連絡します。ここに書いてあるアドレスに、メールすればいいですか?」
「えっと・・先生なら・・」
彼女は俺の手から名刺を奪い、バッグから取り出したペンで裏に何か走り書きをした。
改めて受け取ると、そこには数字が羅列されている。
「これ、私の連絡先です。直接、電話してくだされば」
それじゃ、と彼女はエントランスから出て行った。
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