1.空気感

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「あれ? 今のもしかして茉祐子?」 後ろから、ポンと肩を叩かれた。 「大翔、お疲れ。そう、こないだのお礼にって差し入れ持ってきてくれたんだ」 「そっか。・・あの時、押し付けて悪かったな。手が空かなくて」 「いいよ、俺はもう退勤してたし。でも・・今度何かメシおごれよ。そうだなぁ、焼肉でいいぞ」 「分かったよ、今度休みが合うときにな。俺、これから検査あるから行くよ」 そう言って、大翔は検査室が並ぶ手術棟に向かう。 その後ろ姿を見ながら、今の感じだと本当に彼女とは友人なんだろうな、と思った。 大翔に肩を叩かれた時、とっさにポケットにしまった彼女の名刺を取り出す。 連絡先を教えてもらったものの、そんなに気軽に電話できないだろうなと苦笑いした。 『もし良ければ、今度何かお手伝いさせてください』 偶然にも、題材はあるんだよな・・。 お世話になっている母校の教授に、海外から珍しい症例のデータを取り寄せてもらっていた。 俺も、英語が不得意というわけじゃないけれど、日本語の方が入りやすいのは間違いない。 エントランスの前であれこれ考えていると、胸ポケットに入れている医療用スマートフォンが振動した。 「はい、西島です」 『先生、いまどちらですか? 午後の回診の時間ですよ』 「あー、すみません。すぐ戻ります」 俺はもう一度、彼女の名刺をポケットにしまってから医局に戻った。
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