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「あれ? 今のもしかして茉祐子?」
後ろから、ポンと肩を叩かれた。
「大翔、お疲れ。そう、こないだのお礼にって差し入れ持ってきてくれたんだ」
「そっか。・・あの時、押し付けて悪かったな。手が空かなくて」
「いいよ、俺はもう退勤してたし。でも・・今度何かメシおごれよ。そうだなぁ、焼肉でいいぞ」
「分かったよ、今度休みが合うときにな。俺、これから検査あるから行くよ」
そう言って、大翔は検査室が並ぶ手術棟に向かう。
その後ろ姿を見ながら、今の感じだと本当に彼女とは友人なんだろうな、と思った。
大翔に肩を叩かれた時、とっさにポケットにしまった彼女の名刺を取り出す。
連絡先を教えてもらったものの、そんなに気軽に電話できないだろうなと苦笑いした。
『もし良ければ、今度何かお手伝いさせてください』
偶然にも、題材はあるんだよな・・。
お世話になっている母校の教授に、海外から珍しい症例のデータを取り寄せてもらっていた。
俺も、英語が不得意というわけじゃないけれど、日本語の方が入りやすいのは間違いない。
エントランスの前であれこれ考えていると、胸ポケットに入れている医療用スマートフォンが振動した。
「はい、西島です」
『先生、いまどちらですか? 午後の回診の時間ですよ』
「あー、すみません。すぐ戻ります」
俺はもう一度、彼女の名刺をポケットにしまってから医局に戻った。
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