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第九話
「むふ、むふふ」
俺は大学の机にあごを乗せ、思い出し笑いをしていた。
「へんなわらいかたしてるー」
「まったく、好きなやつと一緒に住めたからってな、相手がお前と一緒じゃなきゃ意味ねえだろうが」
「良いんだモーん、世話焼けるって楽しいね」
「のろけかよ」
「はー朝っぱらから、いい身分ね、頭からハートがこぼれてるわよ」
俺は、あいつの分も、兄弟の分も家事をしている、まあ、そんなに嫌いではないし、あいつのそばにいられる幸せをかみ締めている。
どうせ、長くない男同士の恋愛になる、この先一緒にいられる確率も低そうだしな。
まあ、振られるのは目に見えてるし、祐一の隣に立つ女性は・・・まあいいか。
祐一たちと過ごし二度目の春がきて、祐一は、遠かった営業所が近くなった。一時間、それはもう余裕ができた証拠なのか、ゆっくり眠れると飯は兄弟で取ることもできるようになった。
二十歳カー、あっという間だよなー。
「恭平、お仕事?」
下を向くと理香は四年生で、買い物帰りの荷物を持っている。
「うん、ちょっくら稼いでくる、どうかしたのか?」
首を振ると、二つに結った髪が揺れた。
「理香」
ガさっと音がして、俺のほうを見た理香。俺はしゃがみこんで、手を伸ばし、理香の鼻をつまんだ。
「内緒はなし、抱え込むのもなし、ここなら誰もいない、話して良いよ」
「・・・あのね?」
それは、ちょっとびっくりするようなことだった。母親が理香を抱きこんでいるみたいなのだ。
「何かされてないか?」
されてない、ただお菓子をもらったのと、今度ご飯に行こうねって言われたという。
あのミラー仮面の母親が?何をたくらんでいる?
まあいい、いっぱい高いもの値だって良いぞというと、やったーといっていた。まあそれくらいは許そう。
仕事中、一本の電話。
あねき?
いまどこ?
仕事先。
今いいか聞かれいいというと?耳闊歩字いてよく聞けといわれた。
親父の会社の社長がつかまったというのだ。
それで?
子供たちを連れて姉ちゃんのところへこいという。
何でだよ?抜けられないよというと急いで姉の部屋に行くようにしろというのだ。何が何だかわからない。
とにかくいうことを聞けという。
わかった、すぐに連絡、着替え、学校のものを持ってくれと話し、裕次郎にはバイト先に連絡を入れ、早急に帰るように話した。
祐一にも連絡、姉ちゃんのところの住所を送った。
仕事大好き人間だと小学校の時までは思っていたが、中学に入るとそれは一変、親父は会社に行く振りをして不倫をしていることを知る。それは母親にも姉にも言えなかった。
姉は電話口でこういった。親父は会社に依存しすぎた、こんなとき、どんなことをしでかすか、それと警察も来る、と言い切った。
とにかく、家のほうは何とかするし、子供たちのものもあるから、祐一にも俺にもできるだけ早く帰ってくるようにといった。
仕事先の上司に、家の危機、親父の会社の社長が捕まった話をすると俺に関係あるのか聞いてきた。警察が来る話をすると、すぐに交代要員を何とかするから何とか仕上げまでがんばってといってもらえた。
俺はここ数か月がんばっているから結構信用されていたらしい。
俺は急いで家に帰った。時間は七時を回っていた。
玄関が開き、そこでごそごそやっている姉。
「何してるんだよ」
「大事なのをそっちに移してるのよ、手伝って!」
何でそんなことするんだ?
もしものとき、そっちは祐一の名義になっているから、こっちが差し押さえられていてもどうにかなるというんだ。差し押さえ?
「脱税よ」
マジか?
そして母ちゃんも帰ってきた。
「ほんとなの?」
「うそだったらこんなことしてない、今は友の結うこと聞いて」
「友って誰だよ」
今はいいの、後で教える。
彼氏か?
そんなことをしていた、八時ちょっとすぎ、家の前に数台の車が止まった。
姉は気がつき玄関を閉め、台所から外を回って隣にものを入れた、母親もその音に、動きを止めた。
ピンポーンとなり、姉が出て行った。
「はい」
「国税局です、家宅捜索令状です、ご家族は?」
「今母親だけです」
「呼んでいただけますか?」
俺はそっと隣に入って、聞き耳を立てた。
ドン、ドン、ドン。こっちだ。
「はい」
「わたくし、国税局員のカンダと申します」
名刺をいただいた。神田友則?タイムリーだな?
めがねを掛けたいい男、もしも彼が姉ちゃんの彼氏なら、ドンピシャ納得かも。
すると、はあ、はあという息切れ。
「おかえり」
「ただいま、なにかあったのか?」
「おたくは?」
「ここを借りているものです」
実はと彼が話し始めた。
「お隣のご主人とは会ったことはありません、奥様とはなんどか、はい、いちどもありません」
そういうことか、姉ちゃんが、祐一の電話番号教えろといったのはたぶん姉からも連絡がいったのだろう?
隣では、なにやら言っているのが聞こえている。
冷蔵庫の中身ぐらい良いだろうといっているようだ、ほとんど持ってきたけど・・・。
「一応、中をはいけんさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ちらかっていますが、どうぞ」
「お子さんたちの声がしないようですが?」
「すみません、今日は、俺たちの日で、兄弟は親戚の家に」
ドキン。祐一は俺の手を握ってきたのだ。
「わかりました、では拝見させていただきます」
え?へ?スルー?まあいいか。
外に出て、何か声を掛けると、三人の男女が入ってきて部屋の中を見始めた。
俺は手を握る祐一の行動にドキドキ。すると、神田さんは俺に耳元でこういった。
「親父さんの隠れ家を知らないか?」と。俺の事知ってる?
俺は六年あっていない話をした。
すると彼は小さな声で、あれからずっとあっていないのかといったんだ。
俺は彼の横顔を見ながら、どこかで見たことのあるような。
でも今は、オヤジの隠れ家?
「そういえば、俺がこんな風になったのあいつの女のせいなんだよね」
「女?どこの誰かわかるか?」と本来突っ込まれそうなところ、神田さんはわかったら名刺の裏にメールをくれといって俺から去った。
「祐一?」俺はつないでいる手を見ると、ああ、ゴメンと言って離した。
あの男に何を言われたと聞かれ、親父の隠れ家を知らないかと聞かれた。
「隠れ家?まさか不倫相手!」
俺は雄一の口に手をやった。こいつは俺の事を話してあるから知っているのだ。
「聞かれても俺は知らねえ、名前も、場所すら知らねえからな、めんどくせえんだよ」
こくこくとうなずく祐一の口から手を離した。
大勢の人がまるで家探しをするように家の床下から天井まで覗いている。
近所の人も集まりだしたが、知らないふりもできないしな。
しばらくして四人は、こそこそ話し、神田さんが祐一の前に来て、頭を下げ、又協力してもらうかもしれないが良いですかと聞いていた。
内容は、オヤジが隠しているかもしれない帳簿等が家から出てくるかもしれないということだ。
祐一はかまいませんといい、神田さん以外の人が名刺を出していた。
隣では、母親に、ここを出てほしいといっていて、親父がつかまるか、ここへ帰ってくる可能性もあるということで、家は空けてほしいといった。
姉は、その分のお金はそちらで出してくれるのですかに、出さないというと、私が引き取りますいうと、そちらも監視させていただきますにどうぞと答えた姉。
日付が変わりそうだ、やっと車が出て行った。
鍵を掛け出て行く二人。
ライン。
時間差で来いと姉から。
俺たちは冷蔵庫の中にその辺のものを入れたり、隣から運び出したものを整理したりして外へ出た。
ドアの前で隣を監視する人に頭を下げ、ちょっと離れたとこに人がいたがかまわずに出た。後ろから付いてくるのはわかっているから。
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