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第十話
月曜日、俺たちは普通に会社と学校へ向かった。
大学では、その話は大きくなっていて、棒有名企業の名前も上がり始め、就職もだんだん狭き門になってきたという話になっている。
でも俺はまだそこまで感じていない、どうにかなるだろうなんて安易でいた。
そして二日後。
その日裕次郎はバイト先が休みだった。
「ただいま、ねえ、おじちゃんたち帰ったよ」といいながら入ってきた雄太。
俺はそれを聞いてキョウちゃんにライン。
ありがとうが帰ってきた。
「テレビ、ちょっと良いか?」
「えー?」
「すぐだから」
プチプチとチャンネルを回し、ニュースを探したが、そんな話はなかった。
「はい」
チャンネルを受け取った理香はすぐに、アニメを見始めた。そして兄貴たちにもラインを送った。
裕次郎からのラインを見ていると、姉から入ってきた。
父親が捕まった。
それと母親の離婚が正式に成立したそうだ。
母親は?案外平気な顔だそうだ。安心しろと書いてあった。
本当なら、自分のことを棚にあげて、“汚ねえのは親父だろうが”とたぶん殴りかかっていただろう。でもその気にならなかったのは、祐一たち兄弟がいたからだと思う。
俺は帰りの電車に乗ると社内の釣り広告に目が行った。
恭平の親父さんの会社の名前、そして、ああ、つかまったのかと、俺はなんとなくあの飲んだくれの親父の死に顔を思い出していた。
そして連絡のない母親のかけても仕方がない番号を見ていた。
「ただいま」
「おかえり」
玄関にあるはずのちびたちの履物がない。
「ああ、わりー、飯隣で済ませてさ、そのままなんだわ、裕次郎は部屋だけどな」
恭平の笑顔は、回りも明るくしてくれる。
俺は抱きついた。
「ど、どうした」
「恭平」
「え?」
「好きだ」
すると恭平の顔が見る見る真っ赤になっていった。
「・・・う、うん」
それが精一杯だったのだろう。かわいいよなー。
飯は?風呂?とあわてて言う恭平に、まずは風呂。というと、着替えといった。
「一緒に入るか?」
ブハッ!
「ウワー、テッシュ、鼻押さえろ!」
鼻血出しやがった。
それに大笑いした、俺たちだった。
幸せダー。
俺の隣には祐一が寝ている。
何をしたわけじゃない、ただ寝ただけだ。今はそれだけで良い。
鼻血を出して興奮気味で、寝付けないでいる。
もう、何もおきないで、このままでいてほしいと思いながら俺はずっと祐一の寝顔を見ていた。
そして雄太の受験、推薦❓ウソー?という兄たち。とはいえ、ちゃんとやることはあるから、それさえクリアすれば良い訳で。後一年、気を抜かないように話した。
裕次郎が進学した時も大変だった。「すげーな」
「なあ、俺たちのときもこんなに書類あった?」
覚えてない、書き物だけですごい枚数。それも親が書き込む、仕事場所、生年月日も子供より親、それと連帯保証人?
「ババア?になってもらったのか?」
そのほうが良いだろうという、その下は姉貴、俺も就職さえしていれば書いてほしかった、まあ、雄太や理香のときは頼むよと祐一が言った言葉に、顔がにやけた。
一応さ、俺も気にはしていた。祐一の母親のことだ。
実は役所に行って気がついた、母親が半年前、住所を変更した。どういうことだ?
籍が抜けていたというのだ。できるのか?住所だけで教えてほしいといったら、前の住所だったという。
前?
市営住宅。何も連絡がない、携帯も番号が変わったのか、使われていないという。
今のところ、彼も成人したことで、下三人のことは今のところ何もなく、日々すすんでいる。
そして俺たちは。
「はよ」
「ん」とはブラシを出した。
「ん」と受け取る。
そして、そろって。
「休みテー」
「一日寝たい」
そして抱き合い、がんばろうとハグ。
これが日課になっていった。
時を戻そう。大学三年の初夏、俺の目の前にはレジメが並んでいた。
スタートダッシュが肝心だろ?フライングじゃないんだ、よし、先に出たものが勝つ!
「あれ?スーツ、どこ行くんだ?」
「ん?就職活動、悪い、今日遅いんだ、飯頼む」
「ああ、それは良いけど、大丈夫か?ちゃんと寝てるか?」
「オウ、大丈夫、時間は?」
「ああ、行ってくる」
さて、気合を入れないと!
俺もこうしてはいられないと思ったのは、まだ小学生だった雄太が言った一言だった。
「お金、かかるから、俺もバイトしたい」
兄、裕次郎が卒業式を終えてすぐ、俺たちが行っていたスーパーでバイトをしたいから、俺に保証人になってほしいといってきた。兄貴は忙しくて頼めないといったところ、俺は喜んで引き受けた。付いていき、久しぶりにあった人たちに、同居人だと頭を下げてきた。
学校側にも懐かしい先生方に会い、祐一の弟で、頼みますと頭を下げてきた。
それを見たからだと思っていたのだ。小学生、まだしなくて言いといったけど、そうじゃなかった。
理香が持ってきたプリントを見てぴんと来た。
修学旅行等に向け、子供銀行開始。月々お子さんのおこづかいをためることで、家庭のご負担を減らし、子供たちにお金の大切さをわかってもらうためと書いてあった。
引越しして、転校、そこまで気が回っていなかった、六年生今年だ。
でももう一度見た。
修学旅行等?何かあったかな?
こいつらは今俺の行っていた小学校に通っている。
そうだ、こんなときは素直に聞こう。
学校へ電話して、担任の先生に聞いた。
やはり修学旅行のお金、それと夏に。
「アー、そうだ思い出した、キャンプ、今でもしてるんだ」
それに笑っている先生。
負担がかかりますがなにとぞよろしくお願いしますといわれた。
金額を聞いて、ああこれかと思ってしまったのだ。
入金はできますかに来月準備しておきますというのでお願いした。
稼がねば。
祐一一人では無理だと判断。
そうだ、就職!
俺はすぐに就活に入り、祐一の負担を減らそうとがんばり始めた。その前に!
俺は祐一の隣に座り、目の前に二人を座らせ、子供銀行の話をした。
うん、うんと聞く二人に毎月ちゃんとお金を入れないと楽しいことに参加できないからなといった。
「・・・わたし、いい」
「なにがいいんだ?」
「俺も、兄ちゃんたちが行かなかったのに俺たちが行っても・・・なあ」
それを聞いて、抱きしめたくなった。
「それは、それ、今は兄ちゃんがいいって言ってるからいいんだ、それに、裕次郎も中学で行ったし、高校でも行くんだ、高校は海外だぞ、すごいだろ?」
そうなの?と祐一を見る二人。
「心配するな」
やったーと小さな声が聞こえた。
次の月、喜んで銀行の通帳を兄たちに見せる二人の姿があった。
それからは、一年早くても、めどは立てたくて、動き出した。スーツのまま授業にも出て、みんなに茶化されたけど、俺は目標ができたんだ。
親の真似事でもいい、祐一の助けになると。
バイトも深夜が増えていき、裕次郎にもその負担が行くようになった。
でも彼は、それは大丈夫と下二人もしっかり手伝いをしてくれるし、隣にはババアもいてくれることが増え、俺は、俺のことをし始めたんだ。
たぶん四年になってから動き出したんじゃ間に合わない。
お祈りメールが続き、夏休み返上で歩き回った。
「一年早く動き出したのには何かわけがあるのかな?」
面接官に言われ、最初はいいことを言っていた。でもそうじゃない、俺は今の生活状態を素直に話し、この先、そんな親にならないためにも少しでも早く社会に出たい話をさせてもらった。
「もしも、合格したら、一年は大学と仕事、甘くありませんよ、できますか?」
それに、はい!と答えたのだった。
夏休みはあっという間に終わった。
ブッ、ブー。
メールを明けると・・・!
「よっしゃー!」
どうした?
おかしくなった?
俺はそのメールを周りにいた者たちに見せた。
「まじかよ?」
「うそ、就職決まり?」
「ウエー、一番やばそーなのが一抜けかよ」
俺はピースサインを出した。
冬休みと夏休み、それと空いた時間で、俺はその仕事に先に着く。
何の仕事?
入れ歯を作るんだ。歯科技師になるんだ。
三年の秋、俺はみんなより先に就職することになった。
ブー、ブー。
「ん?恭平。ハハハやったなー」
おめでとうが帰ってきて、俺のボルテージは最高潮。
親父の刑が決まった。無罪ではなかったが、刑務所に入ることはなかった。
社長が部下に押し付けたことで、人の目は冷たかったが、親父を知らない俺は、何もいうことはない。
ただ、自分の言うことを聞かないものに対して殴りつけたあの痛みはわすれない。人間として最低なんだと会社の中でも部下をさげすんでみていたあいつ。俺は、あいつを許さない。
それよりも、このまま、知らない女のところで俺たちに関わってくるなと言い放った。届いていれば良いけどな。
俺はこんなときだが仕事先が決まったのを書いた。
姉貴は、良かったねと万歳のスタンプを送ってきた。
姉貴の恋人なのか、親友なのかはわからないが、友と言う人はやはりあの神田さんという人だった。そう、隣の家にいたのは彼だった、三年いた、忘れていた、姉のアルバムを見て思い出した。
その日、俺は始めて、会社の販促で頼んだケーキを手にしていた。
誕生日でも、クリスマスでもない、なんでもない日にケーキかといわれそうだが、これは恭平のプレゼントだ。
ただいま。
お帰り、ケーキだ!といった理香に、残念といいながら俺はケーキを恭平に押し付けた、おめでとうというと、うれしそうな顔で笑った。
そして。今。
「恭平、飲むか?」
炭酸水を持ってきた祐一。
俺は今日の出来事を話した。
「まさか?」
もう会うことはない、たまたまだっただけの話をした。
「喧嘩か?そういうことを繰り返すんだろうな?」
「人って変われないのかな?」
んー、生活環境とか大きく変わらないと変われないのかもな、俺たちみたいに。
ん?何でそこでお前らが出てくるんだ?
いいかといって祐一はこの四年間のことを言い始めた。
よく笑うようになった下三人。
そして、そこから逃げ出したくて会社の寮にいたのが、こんないいところにいると笑いながらいった。
「恭平」
ん?
キスされた。
そのまま押し倒された。
「結婚しよう」
は?
まじめな顔が目の前にあった。
え、あ?
「鼻血出すなよ」
俺たちは抱き合い、これからもっと変わっていこうと手を握っていたのだった。
そして、冬休み、俺は仕事に付。なれない人に頭を下げてばかりと緊張で、くたくたになりながらも、何とか年が明けた。
俺も、四年生、卒業に向け、やることをやり始めた。
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