第十一話

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第十一話

 そして、正月。  年賀はがきの中に、封筒がひとつ。見慣れない文字があった。俺にだ、裏を見ると祐一の母親からだった。 住所は、ない?名前だけ、それ以外は書いていない。 俺はコタツで丸くなる祐一を引っ張り出した。 「お前に来たんだ、お前が見ろ」 「いいのかよ」 いいの、いいのといって、年賀はがきをもって又コタツに入り、雄太と何かしている。 おれは、キッチンでそれを開けた。  母親は、何度かこっちへ来ていた。 でも、声も掛けるのが怖くて、どんどんここから離れていったという。 父親が死んだのを知ったのは半年後だそうだ。 でも男性が怖くて、ましてや、父親に似てきた子供を見るのはもっと苦しいと書いてあった。 お金がなく、苦しい思いをさせていた、いまだに、生活能力は低く、お金を工面してやれないとかかれていた。 そして、俺にどうか四人のことをお願いしますと最後にはそれで結ばれていた。  一応、祐一に渡し、それを見た祐一は、もういいよ。とこぼし、手紙を裏返しおいた。  俺がそばに行ったとき、住所もかけないんだ、処分して良いといったんだ。 そして、キッチンに立つ俺の背中に重いものが覆いかぶさった。母親も変わらないと、俺たちに会うことすらできないさと祐一は俺の腰に腕を巻きつけて背中に抱きついた。 一番の功労者、そして頑張り屋のお兄ちゃん。 「飲む?」 ビール、この苦さが今はいいのかもしれない。 「うん、御節食べようぜ」 その声にこっちを向いた兄弟たち。 「御節!お皿出す!お兄ちゃんここ片付けろ!」 理佳も雄太も言って来ない、母親が恋しいといってきたとき、教えればいい。 おせちなんて食べたことがないという四人、俺の作ったものは煮物。雑煮は朝食べた。俺の作るのはおいしいとみんなが言ってくれ、それがうれしい。 今は楽しい日々をおくれることに感謝して、今年もお願いします。 一月第二日曜日、その日、俺たちは、スーツに袖を通した。 「おかしくないか?」 「いい男だ」 「元が良いからな」 やっぱり少しがんばっていいものを買ったかいがあった。 外回りになったら安いのでいい。夏は洗えるタイプのほうが良いと母親が言っていた。 もちろんそれも購入。 でも今日俺たちは安いので、着るのはまだ先だと思っていたから。 「さて、行きますか?」 「はー、行きたくねー、俺ぜってー二次会パスな」 「そのとき、そのとき」 背中を押され外に出た。 「大人だなー」 なんだか不思議な感じがする。 二人してスーツで、並んで歩くなんて、こんな未来、夢にも思わなかった。 「手でもつなぐか?」 それに、祐一のほうを見た。 「うそ、うそ、又鼻血出る」 顔赤い? 真っ赤だという。ごめんといわれた。 そんなんじゃないからというと、俺の手を握って早歩き。 「これなら大丈夫だろう?」 「う、うん」 それが精一杯だった。  久しぶりの高校の同級生たち、式もそこそこに、どこへ行くと話している。 でも俺は、案外もうだめで、それでも祐一にはもしも仕事に就いたら女性の患者さんも見るんだからなれないといけないといわれていたけど、俺もうだめ、外にいる、なんかあったら連絡してとスマホを降って外に出た。 空気がうめえ。深呼吸。コーヒーを買い飲んでいた。  就職か?俺は、入れ歯を作る仕事に尽きたい話をしていた、国家試験は通った。就職先はまだ先だと思っていたが、みんな来年には動き出すといっていた。正念場。でも俺は飛び出した。 「バッくれるか?」 そのこえに振り向いた。 「カラオケだって、断った」 いいのかよ。 いいんだよ、どうする? あ、あのさ。 なに? 行きたいところがあるんだ。 よし、行こう。 俺たちは、スカイツリーへとやってきた。 初めてのデート。そう思っているのは俺のほう。 二人手を握って水族館を見てきた。 その帰り。 「なあ」 「ん?」 「ホテル行ってみねえ?」 は? なあ、あそこ、メンズオッケーだって。 い、いやー。 行きたくないの? 甘えるような祐一の声にどぎまぎ。 「あそこにいたらできねーし、記念に行ってみねえか?」 記念? 「初めてのデート、ホテルに行くのは普通じゃねぇの?」 ウワー、こいつもデートと思ってくれたんだ。 「行くのか、行かないのかはっきりしろ!」 「い、行きたいです!」 よろしい、と手を握られ、俺たちは未知の世界へと足を踏み込んだのだ。 「自販機かよ?」 パネルタッチで部屋を決める、会計は中で、人と一切会うことはないようだ。 「どこにする?」 どこでもいい。 せっかくだから、高そうに見えるのが良いな、これはどう? 緊張と、祐一の堂々とした姿に、恥ずかしくて、どれでもいいとから返事をして、ガコンという音と主に出てきた鍵を持って部屋へと歩き出した。 「普通のホテルよりも暗い?」 ああ、そうだねという返事、通路も狭い、そこを大の男が歩いているのだ。 「静かだな」 本当だ、音楽はかすかに流れているけど、静かだね。 ここだ。 鍵を開けると明かりがついた。 「どうした?」 俺は中へ入るのが怖いような気がした。 ぐっと引っ張られた。 「探検、探検」 そう言う祐一の後を付いていった。 部屋の中に大きな風呂がある。スケルトン、その奥にはベッド。 「でっケー、なあ、風呂はいろう、お湯ためるわ」 スカイツリーで買ってきたものなんかをテーブルの上において、風呂へ行く。 俺はそばにあるソファーに座って辺りを見回した。 ビジネスホテルと違うのは、やっぱり、その行為をするためのものだ。 お酒もあるけど高いよな。 自販機は、大人のおもちゃ。 すげーな。数の多さに目をぱちくり。 「なんかすげーな、ほしいのある?」 そのこえに振り向いた、すぐそばに祐一の顔。顔から火が出そう。 「こっちは無料かな?」 ドキドキしっぱなしで、もう。 「大丈夫か?」 え? 熱あるんじゃないか? おでこに手を当てた。 大丈夫、緊張して。 それに笑い出した。 「でも期待してるよな」 ドキン! こくんとうなずいた。 「よし、風呂だ、風呂」 俺のネクタイを解き、シャツに手をかけボタンをはずし始めた。 「エロいなー」 え? いつの間にか、前を空けたシャツにボクサーパンツ、そしてソックスだけという格好。 ウワーと思っていると目の前で脱ぎ始める祐一。 しゅっと取ったネクタイに色気を感じる。 髪を書き上げるしぐさにどきどきする。 「早く入ろう、でっかい風呂好きなんだよなー」 ああ、そういうことか。 俺ももぞもぞ脱いで、祐一の引き締まった体のあとを追いかけた。 「はー」 「ぶえー」 湯船の奥にもタッチパネル。何だろうと触ると、いろんな景色が出てきた。プロジェクター? そうみたいだな、アー、それがいい、露天風呂みたい。 二人で触りながら、沖縄の海見たいのや海外の景色、いつか行ってみたいなといいながら見ていた。 三月になると忙しいだろうな? 卒業式に終わると入学式だな。 花見に、飲み会と春はいろいろ忙しい。 「三年カー、あっという間だったね」 「ああ」 ザバンと音がして祐一が俺のほうを見て手を握った。 「恭平?」 な、なに! 本当に感謝してる。 う、うん。 「お前さ」 う、うん。 「付き合ってる男いないよな」 え? 覚えているか?高校二年の秋のこと。 え?まあ、忘れたくても忘れられないことがある。 「いないよ、俺は祐一一筋だもん」 そっかーといって頭を俺の肩に乗せた。 実はさ、あの女覚えているかといってきた、ストーカー女。彼女は、恭平に女がいるだの、男がいるだのといっては近づいてきているのだそうだ。 怖いから、何とかしてほしいと会社側には話してあるそうだ。 「え?おかしくない、姉ちゃんが」 「そんなの早いうちに彼女じゃないって言われたよ、その後すぐ、男同士になんか負けないって言い始めてさ、大変だよ」 まじか? するとからだをぐっと寄せてきた祐一が耳元でこういった。 「俺は恭平だけでいい」 もうだめ。俺はその声だけで、湯船に沈みそうになった。 「ウワー、のぼせたか、早く上がろう、大丈夫か、水、水!」 それでもやることはやって来た。祐一は興味があったのか、あちこち物色しては無料のものは持って帰ろうとしてて、それに笑っていた。 男同士のハウツー本なんか、勉強すると手にしたのに大笑いして、あいつが手にしたものなんか気にもしないで、俺たちはホテルを出た。 楽しかった、又いこうという祐一に、俺は恥ずかしさだけで返事がうまくできなかった。 そして、俺たちは新しい春を迎えた。 本社勤務となった祐一、スーツ姿もりりしく、新しい制服を着た雄太と肩を組んだ。 又、新しい一歩。
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