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第十三話
次の日、俺は会社を早退し、あいつの就職先に行き、絶対いる時間に尋ねた。恭平から買ってもらった高いスーツを着てきた。
「工場のようですね」
「ハハハ、物を作っている過程は似てますね、ですが私たちは歯科医師たちと連携していますから、あちこちから受注するだけではないんですよ」
恭平から聞いている、歯医者ではないから、口の中を触ることはできないという。ただ、どんな状態か知るために、歯医者の説明を聞くことはある。
設計図のようなものを作ったりもすると聞いている。
家族だと言ったら入れてくれた。話だけでいいと呼んでくれればいいと言ったのだが、話を聞けて良かった。恭平はまじめに仕事をしていると褒めていただいた。
ここでお待ちくださいといわれた。
中には入れない、廊下から中の様子を見ていた。肩を叩かれ、振り向いた恭平と目があったがすぐにそらされた。いやいや立ちあがっているのがわかる。
すごいな、入れ歯だけじゃなくて詰め物とかマウスピースのようなものとかいろんなものがあるんだな。
「すみません」
「ごゆっくりどうぞ」
そういっていかれた人に頭を下げる恭平。
「何時に終わる?」
「え?エーと、ッツウか何でいるんだよ!」
家族だと言ったら入れてくれた、で、何時に終わるんだ?
「…遅くなる」
「仕事は遅くても九時に終わるんだってな、残業はないと聞いてるんだけどな」
え、いや、勉強。
「誰と?」
え?
「帰ってこないのは浮気か?」
「・・・」
「迎えに来る、何時に終わる?」
「・・・いい」
「じゃあ帰ってくるんだな」
「・・・」
スーッと息を吸い、大きくはいた。
「ごめん、俺が悪かった、帰ってきてください!」体を直角に曲げた。
「な、頭上げろよ、みんなが見てる」
「見られて困るのはお前だけだここで抱きしめても良いぞ」
「やめてくれ!」
「それじゃあ終わるまで待ってる」
「お前仕事は?」
「行って来たよ、午後休だ、話をしよう、待ってるから」
わかった、帰ると言ったが待っていると会社の直ぐそばで待っているからと俺は外へ出た。
コーヒーショップへ入り、コーヒーを持って席に着いた。電源を切っていたスマホのスイッチを入れた。
弟妹からの休み時間中に送ってきたラインで凄いことになっていた。
その中に、お姉さんから、何時でもいいので電話をください、と書かれていた。恭平と話をしている時に電話をくれたようだ。
電話をした。
ちょっと待っていてと言われそのまま待っていた。
お姉さんの話は今晩あいているかどうかで、お邪魔したいと言われたこと。
俺は今恭平の会社に来ていることを話すと、帰ったらでいいから連絡をくれと言われた。
チビたちはと聞くと、いてくれも構わないと言い、あまり遅くなるようなら一度連絡をくださいと言われた。
なんだかんだスマホをいじっていると時間はあっという間に過ぎていき、慌てて外へ出た。
帰る人の波に押されるように出て来た恭平。黙って歩く彼の後を追う。
そしてやっと恭平がブランコをこいでいたあの公園まで来て声をかけた。
恭平に謝り、俺は有頂天になっていた話をした。
夢を見ていた、現実になったら楽しいだろうなと思ってしまった。
ただそれを理香に言われなければ気が付かなかったばか野郎で、俺は死んだ父親と同じ。
「ごめん、本当にごめん、俺は甘えてばっかりで、恭平の事なんか考えてなくて、でもな、これだけは信じてくれ、俺はお前といたい、剥げてもデブになっても俺と一緒にいてくれ、いてほしい、お願いします」
「俺もごめん」
振り返ることなく後姿の恭平の声。
嫉妬、妬み、俺は両親に甘えたこともなければ甘えられたこともなかったからうらやましく思ったら、俺は必要ないと思ったというのだ。
「そんなことない、俺はお前がいないとダメだってちゃんと言ったよ」
「でも、祐一はノーマルだもん、女と結婚したほうがいいよ、ごめん、姉ちゃんに頼んで籍を外してもらう」
「恭平!」
背中がびくっとしたのがわかる。
俺は恭平の前に行き、肩を掴んだ。
「なんだよそれー、男同士だからいろんな事が起きるから覚悟しろって言ったのはおまえだろ?それをどうしてお前一人で勝手に決めてんだ!俺の覚悟はどうでもいいって言うのか?お前が好きだって言うのは認められて俺が言うのは認められないって言うのか?あそこで誓ったのは俺の独りよがりか!」
恭平の目からはボロボロと涙がこぼれていて。違う、違うという言葉がこえになっていなくて、俺は恭平を抱きしめる事しかできない。
「ごめん、本当にごめん。こんな俺だけど、これから先も頼むよー、恭平、大好きだ」
えっ、ぐふ、俺も―ごめんなさーい。
落ち着くまで抱き合い、やっと家に帰って来ることが出来たのだった。
弟たちが並んで正座をして謝っていた。
恭平は、手を振りそんなことはしなくていいと言ったけど、裕次郎と理香は馬鹿な兄貴をよろしく頼むと頭を下げていた。
ほどなくして、お姉さんも合流、そして、彼らの母親の話を聞くことになる。
「え?ちょっと待って、叔母さんの家は隣じゃないの?」
驚いて素っ頓狂な声で聞いてきたのは理香だ。
隣の家は百合さんの物、母親はマンションに住んでいる。
ああそう言えば、ここは仕事場より遠いから会社の側のアパートを借りてるって聞いてたな。
母親は自分の家に戻ったというのだ。
そして、俺に話したことだが、大学に行きたいのであれば手伝いはする、ただし、母親の勤める会社に入れるわけではない、社長は違う人だし、立ち上げた一人でしかない母親にそこまでの権限はない。
ごめんなさい、会社を自分の思うように出来ると勘違いしていたのよだからこんなとんでもないことを言ってしまった。とお姉さんは俺に頭を下げた。
俺は今のままでいいことを話した。
そこまで仕事に没頭できるかわからないし、大学に行っても仕事との両立だけではない、無理だと判断したからこの話はなしで。と言うと、お姉さんはごめんとまた頭を下げた。
これで話は終わりかと思った。
「あと一つ、実は相談なんだけど」
え?うそ。
おめでとうございます。
姉が結婚を決めた、結婚相手は、もしかして友と言う人?
「友?ああアイツはダチ、ここ借りてたからあんたは覚えてたでしょ?」
やっぱり、え?でも、誰?俺たちの立ち会いに来てくれたじゃん。
いいじゃない、アンタをよく知る一人だもん。
それはいいけどさー。
じゃあ相手は?
今の弁護士事務所の弁護士さん、そして彼とアメリカへ行くというのだ。
「すげー」
「やったねー!」
ただ一つ困ったことがあるというのだ。
なに?
ちょっと付き合ってくれる?
俺たちはみんなで外へ出た。
姉は本当は家を出る予定で家を買ったそうだ、お金は今の家に入ってきている物と、彼氏も同じような事でお金を稼いでいたそうだ。
「で、ここが新居になるはずだったのよ」
近所の分譲住宅。ここを買ったこの家が自分たちのになるはずだった。
どうするんだよ。
「あんたたちすまない?」で、あそこ貸して家賃もらえばいい、ついでに隣の家も。俺たちはいいのかよと思ってしまった。
姉ちゃんはいつ帰って来るかわからないし、売ると買った時より安くなるのが癪だから俺たちに住めというのだ。
強制かよ。という恭平に、お金は大事よーと言うお姉さん。
あの家にいい思い出はないというお姉さんは、厄落としみたいなもんよとあっけらかんと言う。
それから忙しかった。
姉の彼氏はもうアメリカに言って部屋探しやなんかをしていて、年末に帰ってくると、籍を入れ、家族や親しい親戚友人を集めての食事会をして結婚式の代わりにした。
俺たちは、姉ちゃんの引っ越しに彼氏さんの家の明け渡し、すべてを俺と恭平の物にすると、後は頼んだとアメリカに飛びだって行ってしまった。
気がつけばもう春はそこまで。
そんなんで恭平がダウンした。
あまりひどいようなら明日病院だな。
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