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第十四話
そして俺たちの新しい生活がやっと始まった。
「いってきます」
「忘れ物無いのか?」
「ない、いってきます!」
「やべ―、キョウちゃんタイヤ空気抜けた!」
「まったくー、どこやった?」
「外にないか?納戸に入れたんじゃなかったけ?」
あったー!という声がした。
恒例朝のバタバタ。
行って来るという声がして、ハーと言うため息とともに入ってきた恭平。
入社式はないものの、準じた物が四月一日にあってその日、初めて会社の人たちと、呑みにいった恭平。
裕次郎が大学に合格した。なんでも恭平と同じ仕事をしてみたいそうで、まあやってみろと背中を押したのは恭平だ。借金して、大学へ、でも未来への投資、それはいい形で返ってくると思っている。
雄太は高校生、それも工業高校へ入り、電車通学はちょっと遠くになった。そして紅一点理香も中学生。
「はー、一気に上がると、金も右から左だわ」
「よかったよ、俺たちだけの収入じゃ絶対ムリだったからな、姉貴には感謝だぜ」
ほんと感謝すると抱き着いてきた祐一。
「俺らも仕事」
「やべ、火の元、鍵、オッケー行こう!」
姉貴の彼氏が残した車を借りている、保険は俺たちが払えるのならと置いていったのだ。
祐一の仕事場は駐車場が無いので俺が持って行く。運転は二人ともできるからどっちかが運転する。
「車はいいな、ぎりぎりでも行ける」
「ガソリンも二人なら安いな」
「はー、帰りは満員電車かー、来週はさ、迎えに来てくれよな」
「わかってるよー」
信号で止まった。
ピッという音に横を見ると中学のグラウンド。
「静かだな」
祐一も座りなおしてみた。
授業中?あー走ってるな。
部活じゃない?
そうかもな。
「そいえばさ」
動き出した車。俺は大学でよく聞いたホイッスルの音の話をした。
「スタートダッシュか、俺も運動不足かもな?」
「俺もやばいよ、座ってばっかりだからなマラソンでも始めるかな?」
「まずはこれやめたら?」と言う。車通勤かー。
「エー、朝の時間が惜しい」
「俺も―」
車にしたら、三十分楽できることに気が付いた。
「下の廊下の端にランニングマシン置いてみる?」
「あー無理無理、ジムにいくからやるんであってやんねーつうの」
えー。
まあできるだけ気にして歩くようにしよう。
そうだな。
「チューする?」
「しなーい」
「えー?」
「エーじゃない、見える」
フフフと助手席で笑う奴。
こっちを向いたから手で応戦。運転中!
「夜の運動」
「冗談、週末だけ」
「エー今日」
「ダメ!」
「ムー、明日」
「週末」
今日。
だからダメ、ククク。
ははッハ―ア?桜?
「もう終わりだろ?」
「ホラあれ」
あ、本当だ。
いろんな事がこれからも起きるだろうけど、もうそれを乗り越えられる自信がついた。
祐一はどう思っているかな?
「幸せだねー」
「ああ幸せだな、着いたら起して、寝る」
と席を倒した。
「もう」
俺のお腹に手を置いた祐一の手を握ると握り返された。
カチンと指輪があたる音がかすかにした。
俺の方を見る祐一と目が合うとにっと学生の時と変わらない笑い方をする祐一がいた。
俺は少しスピードを落とした。
一緒にいる幸せがずっと続きますように。
そう思いながら。
END
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