第四話

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第四話

 香山祐一は、四人兄弟の長男で、金もないからと高校卒業後、就職。  俺は長男だが上に姉がいる。親父は、大学まで行けと、何をステータスにしているのかわからないが、有名大学に入学した姉の事をえらそうに言う。まあ会社のいいクラスに胡坐を書いているような親父だ。外で何をしているかわかりゃしない。母親もそうだ、仕事といって外に出ているが、俺たちを食わしてやっているんだから恩を返せといったところだ。生まれたくて生まれたわけじゃねえ。でも、好き勝手させてもらっている。仕事仕事で赤ん坊のころからずっと両親がいたためしなんかほとんどないし、家族なのに家族じゃない他人の仮面をかぶっているような親だからか、姉は、しっかりしていて、もう自立している。  俺、小林恭平は小さいときから姉ちゃんと二人の記憶しかない。  姉は俺を守らなきゃという自我の元、しっかりした子に育った。俺はといえば、姉ちゃんに甘えてばかりの甘えん坊になり、そして、あるときから女が嫌いというか、だめになった。それはたまにしか帰ってこない親父の人間として最低な性格のおかげ、まあ俺らもいろいろあってさ。まあそんなんで俺の性癖は男へ向いてしまった。  俺も家を出たいと姉に話したが矛先が自分に来るので絶対家を出るなといわれている。  うぜー。  人に言わせりゃあ,俺はボンボンらしい。  俺の性癖は早くに母親に見つかっていた。たまたま入った俺の部屋にあった写真を見てしまった。男同士でキスする写真、ただそれをとがめられることはなかった。 ただあの時は、タイミングが悪かった。近くの公園で待ち合わせた出会い系アプリの相手、たまたま早く帰って来た親父に見られた。嫌いな親父に分けも言われずにただぶん殴られ、家をオン出された。何か言って俺が応戦したのならあいつはたぶん俺に負けていただろう、だから、追い出したときに「この家に、ゲイはいらん、出て行け」と言い放ちドアを閉めた。  俺は家にいたためしなんかねえだろうが!とドアをけりつけると、何かの拍子にドアが開いた。 俺はその日は自分の部屋で寝た。 次の日、荷物をかばんにつめているとき、後ろからけられ、引きずり出され、階段を転げ落ちた、そのまま外に投げ出された。 「誰が入っていいといった、顔も見たくない二度と来るな!」 家は別だ。二世帯住宅にしていたから、俺だけは高校から、バイトをしていて、親の世話には、まあ、なっているようでいないか?  一応大学には合格したが、頭の良い祐一が就職、なんだかな?  時間も合わなければ、遊ぶ暇もない。  ブラック企業かと聞けば、そうではないが一年目は覚えることが多いのだという。  就職先は大手パン工場、あいつが、パン工場?もっといい会社はなかったのだろうかと思ったが、あいつの家庭事情を知っているだけに、俺は踏み込んじゃいけないと、なぜかそう思った。 始めて祐一の家族と会ったのは高校一年の夏、オヤジに殴られた後。祐一と同じバイトを始めて、いっぱいの買い物をしたあいつに付き合って荷物を持っていったときだ。 高齢の両親。一番下の子はまだ小学一年。 子供ができてうれしかったのかと思えば、父親は、酒びたりの横暴な親父さという祐一。 悪いが俺にもそう見えた。こんな遅い時間まで小さな子が起きている。他人がいる前で、酒を飲んで子供には言い面していても母親には些細なことで怒鳴っている。でもそれに子供たちが笑顔でいる、家族がいる。母親が作る暖かい食事、それだけでもいいのかもなと、祐一の家族をなんとなくうらやましく思ってみていた。 その家族を支えている祐一、学年でもトップの実力、運動もできる、顔も良い。ただ家庭環境が・・・。 神様って皮肉だな。 ぷらぷらしている俺も先を考えなければいけないのに。何をしているんだか。そう思ったのは高校二年の進路を決めたときだった。 ただいまーと先に中へ入っていく裕次郎。 ただいま。と俺は米を置き、玄関を閉めた。 「おかえり」と顔を出したエプロン姿の祐一がまぶしい。 「飯できてるぞ」 その前に風呂、もう寒くて、先入るねと裕次郎はちょこまかと動いている。 おう、俺も後から、みんなは? 終わった、ねたよ。 キッチンのコンロの前に立つ祐一の後ろからのぞいた。 「なに?」 「寒いから鍋した、残りで悪いけど」 コンロの上には大きな土鍋がくつくつといい音を出している。俺はその後ろに置かれたビニル袋を開けた。 「裕次郎の戦利品はーと、オー、揚げ物、この時間は無理だわー」 惣菜の残りや消費期限が切れそうなものを出していく。 なに? から揚げ。 「俺もだめだわ、年取ったなー」 「同い年」 「そうでした」 フハハハ。 ハハハ。 「なあ、今日さ不思議なことがあってさ」 俺は裕次郎の置いたものを片付けながら仕事場での話をして、上司にもしっかりその話をしてきたことを言った。 「ああ、俺もさ」 祐一も、仕事関係で元のバイト先で、その話をされたそうだ。 「季節かね?」 「だろうな、あの日も寒かったしな」 「朝めちゃくちゃ寒かったもんな」 「でも、案外人肌ってやっぱあったかいって言うのは実感した」 「・・・スケベ」 「アー。俺はスケベですけど、何か?」 「・・・なんでもありません」 くっ。といって笑った顔が好きだ。 「早く風呂行ってこい」 「はーい」 「今晩するぞ」 「しー、もう」 ハハハ、早く行けよ。  こんな幸せが来るなんて、俺はもう死んでも良いかもしれない、なんて思っていた。 風呂に入って、飯くって、明日は休みだなんていいながら、俺たちは、二階の奥、祐一の部屋に入った。 「この寒さも例年並みって言うけど、二日前まで半そでだったんだぞ」 「俺今日くしゃみ連発だったわ」 この部屋は布団を敷く。ベッドだと音がうるさいという祐一。 俺が顔を赤くすると、俺寝像悪くてさっと言ったのに、早合点したことを後悔したことを何時も思い出す。 「洋服どうする?」 ちびたちの衣替え、まずは、姉貴のものと俺のだな。小さいのは、きれいに洗濯して、団箱行き。 「いいのかよ、お姉さんのなら良いけど、俺たちのは」 「良いんじゃね、小さい時ってあっという間ジャン、お下がりがあるって言いと思うよ」 まあ、見てからだな。 俺たちもだな。 コート、だせーかな? 高校時の? うん。 それこそ裕次郎にやれば、あれはいいよダッフルだし。祐一はリーマン用。 「お前のリクルートコートあれくれどうせ一年後、新しいの買うだろ?」 「え?一回しか着てないのにー」 「着ない、着ない、よこせ」といって俺の上にまたがった。 「えー」 「エー、エーいうやつはこうじゃ」 キス、うまいよなこいつ。 俺は抱き合いながら、この先もこのままで、いられるようにと神様にお願いした。いいときだけの信心でごめんなさいと思いながら。 そして俺は、高校卒業後、絶対会うことがないであろう祐一と出会った日を思い出していた。
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