第七話

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第七話

side祐一  人の笑い声に目を覚ました。  理香の声?  窓を開けると心地いい風が入ってきた。  笑い声は隣のようだ。  時計を見ると、もう昼。  首をコキコキ、肩を回すとゴリゴリ行っていた。  俺、アルコールあわないな。  恭平に聞いて、飲みやすそうなところでジュースのようなサワー類、氷が解ければ、量が減っていないように見えるから、カモフラージュには良いと聞いていた。ビールは苦いから好き嫌いがあるといわれていた。たいした飲んでいないけど、食ってないから、胃がもたれるってこういうことか? 腹をさすって気がついた、下半身の暑さ。 びんびん、それより、思い出したのは、夜のこと。 ごめん。 俺は恭平に襲い掛かっていた。 やべ。 下に行き、トイレに行って台所に行くと、胃薬。 まったく。こういうところがかわいいんだろうなー、ウザったいと言う人もいるんだろうけど、それはまだ無いしな。 するとグーッと腹がなった。 腹減ってるのかな?何カーおーいイねー感謝です。 サンドイッチ。パンはうちの工場のが安く手に入るが、中身は恭平がしてくれたものだ。 俺の好きな卵、茹で卵にマヨ、それに今日はキャベツと玉ねぎがみじん切りで混ざってる。  俺は食いながら、初めて恭平と話した日のことを思い出した。高校一年のとき、知らないやつばかりでなじめるかどうかわからないでいた。 学力で推薦だったけど、借金して高校へ入った。 奨学金は大学だけかと思っていたら、高校でもできると、母ちゃんは親戚たちに頭を下げていた。 「エー、お弁当自分で作ってるの?女子力高?」  入学してすぐ、女に囲まれてすげーよなという男子たちの先には女子に囲まれる数人の男子。 おかん気質なだけだと思っていた、恭平は、女子力があって、よく女子に囲まれていた。 きれいな横顔、ウエーブした髪はテンパで嫌いだといっていた。背もひょろりと高く、女子たちは通り過ぎるとき、かっこいいねといっていたのを良く聞いた。 それと女は嫌いだとよく言っているのを聞いていた。 ただ恭平の周りは何時も人だかりができていて、女が嫌いというのに女性の髪をいじったりしている。その中心で笑う彼がまぶしかった。 ある日。 グー。 その音にみんなの視線が集った。 まだ二時間目。 なるなと思っていても、腹の音は結構うるさい。 食うのも困っていたけど、何とか腹には入れてきたのにな。  休み時間。  俺のところを通り過ぎた恭平が、缶ケースの中にチョコバーを置いてトイレに行くといって出て行ったやつの後ろをついていった。 おい!と振り向いたとき遅く廊下へ出て行った。 手にして裏返すとそこにはかわいいシール、携番?麻美と書かれていた。 「え?なんで?」 その声に振り向いた。女子が俺の手を見ている。 「これ、君の?」 すると彼女は、いい、食べてといった。 「ありがと」 すると、これもあげるといって、あめをもらった。 「麻美ずるーい、香山君これ食べて」 これも、これもと俺の机の上は貢物でいっぱいになり、戻ってきた恭平たちはそれを見て大笑い。笑うなよーといって、麻美のチョコバーをさしだしたら、もっておけといった。  男子は腹がへるよなーと、俺の音のことより、いかにして女子から、貢がれるかを話し始め、俺もそいつらの中へ入ることができたんだ。 次の日から俺の机にはバレンタインかと思うほどお菓子が置かれるようになったのに大笑いだった。  恭平とは三年一緒だった。  握り飯しか持ってこない俺に、おかずを作って持ってきてくれたり。ポットを持ち込んで男子で安いカップめんを買い込んで食ったりと。一年が終わるころには、俺の分の弁当を作ってくれるようになった。何かと俺の世話を焼いて、俺の母親か?といわれた突込みに、おなかを痛めて生んだ大事な子といって茶化してみたり。それまで友達を作れないでいた俺にとって始めて親友と呼べる友達ができた気がしていた。 気遣いのできるやさしいやつ。 「うざったいとかいう奴もいるかもしれないけどさ、家庭環境は人それぞれ、遠慮はいらねえ。食え!」あいつの笑顔に励まされた。  恭平と距離を縮めた夏、夏休みに入る前の日、ものすごい顔で現れた恭平。 一人席に座った恭平は、机に伏せ、誰も近づけない。 俺も声を掛けたが恭平は手でくるなと、あっちへ行けと手を振った。 あまりの顔に、先生が呼びつけ、喧嘩か?と聞いていた。 親と喧嘩して、父親に殴られたといっていたのが聞こえた。  俺はバイトで、学校のそばのスーパーにいた。  深夜、十時、バイトが終わり、明日から、めいっぱい稼ぐとお願いしてきた。 何時も一駅手前で降り歩く、それだけで、金を少しでも減らそうと、消費期限の切れた商品を抱え、家に帰る。 知っている道は、隣の学区だから良く知っていた。 キー、キー。とブランコに人影、明かりに見えたのは恭平だった。 「よ、こんな時間どうした?」 「あれ?お前んちこの辺?」 又、傷ができていた。 俺は隣の学区、散歩、じゃないな、金を浮かせるのに歩いてる。 「そうか・・・」 「なあ、顔、又ひどくなってねえか?」 そうか? 顔を上げて笑った恭平の口から血が出ていた。 かばんからタオルを出し、ぬらして、顔に当てろといった。 何があった? 「俺さ・・・引かないでくれよ・・・ゲイなんだ」 「それがどうした?」 「ゲイだぞ、男が好きなんだぞ?」 「だからそれがどうしたんだよ?」 「はー、親父に顔も見たくないって言われてさ」  恭平は、家を追い出されたこと、荷造りをしていたら、家に入るなと外へオン出されたことを淡々と話し始めた。 「俺んちに来いとはいえないしな」 「住むところはあるんだ、ただ、親父に殴られたとき、鍵とかみんな飛んじゃってさ」 「家に入れないのか?」 うんという。 「俺があけてやろうか?」 できるのか? 俺はそのとき初めて恭平の家に来た。 こっちといわれたのは、玄関に入らず、高そうな車が止めてあるポーチの脇から入っていった。 裏口のようなサッシのドア。 ちょっと引っ張っても良い? うん。 「恭平、お前の髪結んでるゴムかせ」 「え?おう」 俺は、親父が酒飲みで、貧乏で、よく家からほおり出されるから、こんな技を実に付けたというと、内緒だろ、いわねーよ。とやつはいった。  もぞもぞとやっているとカチンといってロックが外れ、ドアが開いた。 明るくなってから、探すといいながら、あがれよという、恭平の後をついていった。 ここは? 二世帯住宅にするつもりだったんだけど、いろいろあってさ、使ってないんだ。 入っていいのか? ああ、という奴の後を追った。 隣だろ?ばれないのか?姉貴の知り合いに貸す予定でいたから。・・・そこは話がついてる。 そうなんだ。 「腹減ってない?そうはいっても何にもないんだよなー、バイトもしないと」 「俺、飯持ってる、期限切れだけど、まだ平気だし」とインスタントのごはんを一つ出した。戸棚パタパタ開けてみている恭平は「ラーメンがあるけどひとつかー、なあ、何かある?」  俺は持っているものをいうと卵だけほしいと、あいつは簡単にラーメンと飯を混ぜたものを作ってくれた。  半分こして何もないからフライパンからじかにとって食った飯が熱々でうまかったのを覚えている。傷をかばいながら、アチ、うめと言う恭平の笑顔を忘れない。 それから恭平は俺と同じスーパーでバイトをし始めた、そして俺は良くこの家に来ていた。 両親の喧嘩から逃れるために。  カミングアウトは俺しか知らないし、あいつが俺を好きなことはうすうす気がついていた。 二年の夏、あいつは死ぬ思いをした。 そのとき、一人にしていたら絶対に死ぬと思った。 ああその後だな、謝ってばかりの恭平に、謝るくらいなら動け、といったのは俺で、怖い思いをしたあいつには、無心で何かをしたほうが早く忘れるきっかけになると思ったんだ。 俺はこんな貧乏から抜け出してやると決めた、だからといって、それで卑下するような真似だけはしたくない、だから勉強も運動もがんばってきたんだ。 「強いな」 「俺だけ逃げても死んでも、下がつらい思いするだけ出しな」 「・・・そうだな」  俺はあいつに助けてもらっていた、だからこれからもずっと親友でいようといったのを後悔している。  恭平が俺を好きで、仲間たちにゲイばれしたとき、俺の言った言葉は、彼にとっては、一番堪えることだと知ったからだ。 らりって、泣きながら、俺のことを好きだといいながら、つらそうな体を痛めつける恭平をとめた。水を飲みたいというのに、口からだらだらこぼし飲めないあいつに口移しで飲ませた。 もっと、もっとという恭平は俺にしがみついてくる。 そして、「助けて」という恭平に漬け込んで、俺はあいつを抱いたんだ。 恭平は、親友以上のことにはならないから、お願いだから、今だけ好きでいさせて。と泣きながらいった言葉、本心なのかどうなのかわからないが、その後、俺と距離を置こうとしているのか、ちょっとぎこちない友人関係になったような気がする。  俺は、あのことを何ともないと思っているというと、言うなと、俺の言葉をさえぎるようになった。  恭平は、今でも俺にはいつでも笑ってくれる。そして、俺は甘えたまま、ここにいる。  恭平のお姉さんにも感謝している、安い金額でここへ入れてもらっている、光熱費なんかはすべて恭平が出しているんだ。感謝しかない。 お姉さんはたまに顔を出し、恭平が好きでしていることだから、甘えて置けというけど、ご両親はどうなんだろう? さめた両親は、体裁だけで一緒にいるだけ、外には、別に家族がいるんじゃないとお姉さんはあっさりしている。戻ってきても二人一緒にいることはないといっていたが・・・。 「俺さ、お前と同じだと思ってたけどやっぱり違うわ」 といってにっと笑う恭平、その笑顔の下は何時もさびしい顔を隠した笑顔だとあの時知った。 今は、俺といて無理をしていないだろうか? シャン、シャン、シャンと言う音とともにドアが思いっきり開いた。 「お兄ちゃん!おきた!」 という、理香は着物姿。 「お前、なにそれ、ウワーだめ、汚したら、大変!」 「兄ちゃん、写真取ろうよ」 お下がりだって、といっているが。 俺は引っ張られ隣に行くと、お姉さんの百合さんと母親が、笑いながら見ていた。 写真、写真というのでスマホを出した。 「いいんですか?」 「どうせすぐ着れなくなるし、私も子供産んだって女の子が生まれるかわからないしさ、着れるのは良いしね、ハイ写真撮るよ」 俺はありがとうございますと頭を下げた。 おばさんもあきらめたわといって、女の子がいるのって良いわよねといって遠い目で見ていた。 その時俺はすみませんと心の中で誤っていた。
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