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第八話
恭平に言わせれば、ババアも何時もいないくせにこのごろいて、きしょく悪いから、俺に十分注意するように行っていた。
でもいい母親だと思う。
俺のところは・・・。
ぺこぺこと頭を下げるだけの母、父親の暴力には向かうことはなく、ただ俺たちをかばうのが精いっぱい。母親がちゃんと寝ているのを見ていることがないほど、働いて、働いて。”子供のため”その言葉は、何かの懺悔のようにしか聞こえない。
俺たちは生まれたくてここにいる訳じゃない、俺はいつしかその言葉に反発し始めていた。
高校に入りたくないといったとき、父親のようになりたくなければ高校へ行けと言われた。
中卒で何ができる?
それにこたえられなかった。
だから高校へ行けと言われた。大学は行きたいときに行けばいい、やりたいことはいつでもできるといった母親に、何故父親と離婚しないのか尋ねた。その時の言葉はよく覚えている。
「とっくに心は離れてるんだけどね」
母親はそれ以上言わなかった。
でも俺は知っている、離婚したら、今はいない爺ちゃん婆ちゃんや親せきたちにどんなことをするか、爺ちゃんたちは親父のせいで早死にした、俺はそう思っている。
高校のときに、恭平に言われたことがある、俺と恭平は似ているところがあると思っていたけど、お前の家族、良いなっていわれたことがあった。
何度か、あいつが俺のところに来たことがあったんだ。俺は、表面しか見えないからといった。
「それでもつくろう家族がいる、俺は、一人だったから・・・」
恭平と家族の話をしたことはない。俺のところにヒトなんか呼べなかったから。
飲んだ暮れの親父の暴力、仕事もしないで、母親の細々とした金だけが頼りなのに、子供ばっかり作って、早く大人になって、楽させろというあいつに反旗を翻し向かって行けたのは、恭平と付き合ってからだ。
そして俺たちは腹を割って話をした、親のこと、早く、独立したいこと。
その時知った。殴りつけてまで母親の体に乗っている男の性(サガ)俺はそれに吐き気を覚えた。
「ゲイなんだぞ、男が好きなんだぞ!」
と言った恭平に、何の疑問も抱かずにいた。その事を人に言う気もしなかった。
でも今考えると、俺も女がさほどいいわけではない。
ただいまはそばにいるのが恭平で、すごく安心できるのと、俺はアイツの事が好きでたまらないと言う事だ。
スマホからの音に気がついた。
懐かしい思い出だな。
やっと落ち着いて、充電してあったスマホを見ると、恭平から鬼ライン。あけると。
女―。とでかい文字。
(へ?誰?)
女が来ていた、会社のヒト。
(誰だろう?)
追っ払っちゃった、ごめん、と内容が書かれていた。
「ぷ、お姉さんが彼女って、それは悪いわー」
でも、サンキューと返した。
〈恭平、本当にサンキューな。俺はもう恭平ナシじゃ、だめかもしれないな。〉
そうだろ、そうだろ。と速攻で返ってきた。それがおかしくて笑っていた。
※
21時にバイト終え帰宅。地獄じゃ。
ただいま。
おかえり。
「アーいいにおい」
「だろ?いい肉もらってさ、すき焼きしたんだ」焼き方とかちゃんと教えてもらったという。肉だけ後でなという。という事は、今日の食事当番は、理香はしなかったか?
「へー、ふろいってくる」
「最後抜いておいてくれ」
「おう」
風呂から出てきてテーブルに着き、グラスを出してきたからビールを出した。
「飲むか?」
「おう」
どうも俺はアルコールはあわないかもなと言いながら昨日の飲み会の話、それと理香の事を話し始めた。
俺の前にカセットコンロ、その上にフライパンが乗っかった。
カンパーイ、お疲れさん。
「ふー、それじゃあいただきます」
「つけものあるぞ」
「うん、つまみにくれ753か、いついくって?」
「十一月の初めの日曜だって、町内会での申し込みだからって百合さんがしてくれた」
やったことないからみんなで写真を撮ったそうだ、感謝してますと頭を下げた。
「そういうのは仕切りたがりなんだよなー、まさかこの肉も?」
「まあ、いいじゃん、それは俺のほうだし」
「まさか、からだで払えとか?」
ねえよとでこピン、真っ赤になって、下を向いた。
「来たぞ、成人式の集り、どうする?参加するだろ?」
二枚の往復はがき、片方は役所から、もう片方は賑やかな色が踊っている。高校のときの同窓会もかねてか。「いきたくねー」
「珍しいな、お前がそんな事いうの」
「女のにおいがいやだ」
「アー化粧と香水な、俺も、パン作ってるからかそういう匂い敏感になってさ」
「そういえばお前、工場なのに、作るほうには行かないの?」
時間勤務で、夜遅くて昼かえってくるそうだ、それは、できないって最初に言ってあったから営業にまわされて配送業務をしているそうだ。
「来年からスーツだぜ」
「マジか、安いの買うなよ」
「エー、良いじゃん、それでかえをもってたほうがいいよ」
「それでも一つぐらいいいの買え、そうだ、俺が買ってやるよ、愛をこめていいの選んでやる」
「そうか、じゃあたのむかな?」
「エーそこは、愛はいらねえって突っ込むんじゃねえのかよ」
「まあ、俺も大人になったということだ」
「たった四ヶ月先輩なだけじゃねえか」
「あと一ヶ月、だな、後輩」
「くソー、飯、たれかけてどんぶりにする」
「はい、はい」
実はさ、と俺はあることを話した。理香のことだ。
すると、アーと頭を抑えた恭平。
「そこは、さすがだな、ん?でもあのババアが気がつくか?姉ちゃんじゃね?」
まあ、俺にしてみれば、女一人だし、こんなこと相談できる人は今いないから、おばさんとお姉さんに任せるしかないよ。
それで良いなら良いけど、そうカー、女の子だもんなー。
そう、問題は次々起こるのだ。
※
三年前を思い出していた。それは中学三年、裕次郎の進学。
お金のことで、まだ迷っている、大丈夫心配しなくていいに、ヒトの世話になっているのに、良いのかといったのが胸に来た。胸を押さえている、来年は雄太、どうなるのだろうか、怖いものがあるという。でもあの後の裕次郎の言葉に救われたんだよなという人は俺の前でニヤニヤしている。
なんだったけ?
すっと、後ろから伸びてきた腕が、裕次郎のほっぺたを引っ張った。
「いでで、きょうちゃん、ぎぶ、ぎぶ!」
「又金のこと、あのな、心配は大人がすればいいの、お前には、まだ四年あるんだ、そのときになってから心配しろ」
「だって、兄ちゃんも、キョウちゃんも、俺たちのために、彼女もつくないしさー」
「アーおれ面倒だからいらねえ」
「俺も、恭平といたほうがず―っといい」
「なあ、前から聞こうと思ってたんだけど、ふたりってさ、もしかして、あっちか?」
あっち?
「んー、男同士って言うの?別におれ良いよ、母ちゃんみたいな女なら俺もいやだし、キョウちゃんのお姉さんは好きだけど、キョウちゃんほどじゃないし」
「祐一、俺今ほめられてる?」
「そうかもな」
ぎゅっとだきしめてるよ。
「裕次郎大好き」
「おれはいい」と手をたたかれた。
「サンキューな、まあ、そっちにとってもらっていいわ、俺も恭平がいなかったらって思うところがあるし」
「ゆういーじー」と今度は祐一に抱きついた。
アーなくな、なくな。
「とにかく、金は天下の回り物、気にするな、今まで何とかしてたんだ、何とかなる」
「はー、言い切るのも良いけど、だめなときはだめって言ってくれよな」
「そのときはいう」
「わかった、いちおう、兄ちゃんたちの後輩になるわけだし、バイトもするからな」
「おう」
「がんばれ」
それじゃあ。
「恭平?」
あ?
われに帰るとまっぱの二人。立ち上がり、ジャージを羽織った祐一。
俺にも行くかと聞いた。
行く?ああ、風呂?
「なあ、大丈夫か?」
「なにが?」
休みの日までバイトを入れて、体、季節の変わり目だし、顔赤いぞ。
「そりゃあ、未来の弟に、あそこまでいわれたらさー」と両手で顔を包んでる。
「あー?はい、はい。」
「えーそれだけ?」
「じゃあ、何がいい?」
祐一の顔のどアップ、俺は何もかえせなかった。
ただほほにキスされた感触が、あんまりに鮮烈過ぎた。いいのか?俺、祐一に飲まれてる?
「早くこい、さめちまう」
恥ずかしいのはなぜだ?何度も裸を見てるし、風呂も一緒に入っているのに、それにさっきまでやってたのに・・・いそいそと準備して風呂に入ったのだった。
その日一日浮き足立った。
次の日、どん底に落とされようとする日がこようとは思っても見なかった。
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