第一話

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第一話

 木々が赤く染まり、落ち葉がからからと音を立て落ちてくる。秋はすぐそこだがつい二日前まで、Tシャツ姿で、汗をかきながら授業を聞いていた人並みが一気に長袖になった。〈秋の服なんて着れないわよね〉と集り話す女子たちは〈トレンドなんていってられないわ〉と笑って話している。  まだ木々は青々としていて、それでも急に寒くなったから、桜の葉が一気に落ち、うっとおしそうに片付ける職員が見えている。 半袖と長袖のまじる午後、だんだんと春と秋が消えていきそうでなんだか寂しい。かといってそれを何とかしようなんて思ってもいない?俺たちがいる訳で…。  金曜の最終授業、気持ちはもう夜と週末の休みのことしか考えていない。 心はうきうきし通しで、授業なんて何も頭に入ってこないくらい。クーっ!考えただけで腹の奥のほうが熱くなって行く。  この頃あいつは野獣だ。  俺をいじめるのが楽しくてしょうがないように見える。  昨日の夜、俺はアイツの体の事と恥ずかしさから、お預けと言って、自分の部屋で寝ようとしたのに…。おいでと言われると断れない、あー俺は、そう、アイツの事が好きすぎてー!  ハア、落ち着け、まだ授業中だ。  やっと授業が終わって皆教室を出た、俺もバイト。今はまじめに稼いでいる。就職のことでいっぱい、悩み、考えた。なにがなんでも地元を中心に仕事にいけるところを見つけなきゃと思ってがんばった。  今の幸せを守るため!  この幸せは逃したくない!と力がはいる。  あいつが、就職先を何であんなところに決めたのかがわかったから、俺もあいつのそばにいるためにも、がんばらなくちゃいけない。 そう奮起して、一年も早く就職にめどが立った。 今は就職先でバイトをしている。後は卒業するだけだ。早かった四年、いや、あいつに出会ってからのそのスピードはあっという間だった。 「小林、バイト?」 うん。 「恭平!バイバイ」 バイ!  声を掛けられてはさようならを繰り返す、この学生生活もあと一年か? ピッ! ホイッスルの音に、グランドに目をやった。 一列に並んだ生徒。 ピッ! ホイッスルの音ともに全力疾走を繰り返す。 スタートダッシュは短距離の命。念入りに生徒にフォームの指示をするコーチ。 デジャブ? 去年、いや、毎年同じ光景を見ているようで、足を止めた。 あいつに再開したときは大学一年の夏。でも今は三年の秋?・・・あれ?なんでだ? 指を折ってみる、4,5,6?春? 何がどうなんだかわからないが、ピッと言うホイッスル音に、季節はあいつとの出会いをごっちゃにしていた。 ピッ!その音になぜか、からだを動かしてみる。歩きながらのストレッチ。 そうだ、あの時は、たった数ヶ月前までは、高校生で、走るのも楽にできていたのに、なぜか、息切れがして。バイト先で若いのにといわれるが、大学に入ると急に運動らしい運動をしなくなって、運動不足は否めないでいた。 でも。・・・。 ピッ! その音ともにダッシュ。 体が、今じゃ軽い。 そういやぁ、あの時も急激に寒くなって、あわててその辺にある白い長袖のTシャツに半そでのTシャツで重ね着したっけな・・・うっ、思い出したら、顔が熱くなって来た。 初めての夜は、高校二年。 そして二人で迎えた朝。 寒いといって俺のシャツでいいと、あいつは俺のを躊躇なく着た。 その裸の後姿に目を奪われた。 俺のTシャツを貸せと上に制服を着て学校へ一緒に登校したんだったよなー。 そうだ、あの日・・・。 ウワー。 走って、走って。 人肌が恋しい時期、でも俺は、初めての失恋でパニックになり、救ってくれたやつに恋心を重ね封印しようとした。でも、あいつは、俺が思っているほど、何も知らないわけではなくて、案外俺のほうがうぶで、何も知らないことが多すぎて。 あいつがあんな野獣だったなんて、思っても見なくて。 ウワー、考えただけで、顔から火が出そう。 こんな関係になるなんて思っても見なかったから、あいつから、恋人という言葉が出てきて、俺は卒倒しそうになって、いや、好きだったからこそ、もう、なんていっていいのかわからない。 いや、今それにじっと耐えているといったほうがいいのか? 「今日帰ってきたら覚悟しろよ」 ウワー、急にしゃがみこんだ。 恥ずかしい、あんなことや、こんなこと、妄想でしかなかったあいつの体が、目の前にー。 シャキン!と立ち上がった。 バイト行こう。 これは、片思いだった俺が、あいつと結ばれて今に至る物語、かはー、恥ずかしい。 誰が俺たちのいちゃこらばなしを誰が聞くんだというけど、言わせてほしい、今俺は、世界で一番幸せなのだー!
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