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#2 ふわり/ギラリ
「めぐみん! おしかったねぇ」
放課後からゲーセンやらとめぐみんと遊びまわった。とてもとても楽しかった! でも、それは嵐の前の静けさ。地獄の入り口でもあることぐらいあたしだって馬鹿なんかじゃないわ! でも。この楽しい時間が終わらなきゃいいのにって思っているのは嘘なんかじゃないの。
「もう! 絶っっっっ対、ここさぁ~~Pなんか最弱だよ! うちの姉ちゃんがゲーセンの店員やってんだけどさぁ~~……って。ぅわ。やば、たにえん」
めぐみんが急に何か見てうわ言のように口にした。何を見たのかってあたしも視線を向けたら、「やばぁ」ってあたしの口からもそんな間抜けな感想しか出なかったの。頭が悪いからでしょとか言わないでね!
横にいるめぐみんなんかよりもオシャレで可愛い女の子がクレーンゲームでしているのは他と同じにしろ。持っている景品の数の桁が違う。一体、幾らでゲットしているのか。背負っている肩掛けの景品袋の中もパンパン。左右に景品袋にもいっぱい入っている。本人なんかよりも太い。一体、どうやって持って帰るのか。
(フィギュア、アニメキャラ人形。たこ焼きゲームかなんかの箱景品)
プロの腕前だ。フィギュアにしろアニメ景品なら転売が出来るだろう。恐らくはお小遣いにするんだろう)
クズだわ。本当に転売厨はくたばってしまえ。うらやまけしからん、ってやつよ。クッソたれ!
あたしが欲しかった景品ばかりじゃない。いいなぁ、いいなぁ。
◆
(仲がいいのね。宇野さんと)
わたしは向けられる視線の先にいる彼女に想いを馳せた。中学校時代の地味子。
石田桃子さん。
彼女はわたしの憧れ。でもわたしがいくら覚えていても彼女は違う。
変わってしまったわたしなんかを覚えてなんかいなかった。このわたしが覚えているくらいなのに。高校の受験先は知らなかったし。本当に本当に偶然の高校生活で、教室は違えど寄宿舎が同じだった。部屋も違うけど階は同じだったことがどんなに嬉しかったか。話しかけたかったけど。今はわたしが地味子。きらきらな彼女の横にはいられない。分かってはいるの。でも。
(どぉして他の女と一緒に遊んで笑って楽しそうにしているの)
わたしはあなたの友達になりたい。でも地味子のわたしなんかがいたら恥ずかしいのも分かるわ。でも、彼女なら受け入れてくれるかもしれない。ううん。いっそわたしもキラキラになればいいんかな。って思ったのと、やっぱりキラキラが抜けきれないのかなりたいときがあって、今も、地味子には思えない中学時代の杵柄でキラキラになってついて着てしまった。うっかり。行くって話しを聞いてしまったし。待ってる間に沢山景品も獲ってしまったし。どうしょう、この景品の山たち。
と。ガッコン!
《あめでとぉう!》
クレーンゲームから祝福の声がわたしにかけられた。
なんて空しいのかしら。誰か(石田さんがいい)が横にいて喜んでくれた方がよっぽど嬉しいわ。
にこやかに彼女の目の中がわたしいっぱいに染まる。頭の中もわたしでいっぱいになる。今は横にいられないけど、まだまだ時間はあるわ。わたしの横は開けておくから。
◆
「すっごぉい! やばやばぁー~~」
めぐみんの目の輝きに「うんうん!」とあたしも頷く。
すると、くるりんの目の前の彼女が身体を翻した。
バチ!
「「 」」
目がかち合った。
とても不思議。逢ったことがある気がしたの。
「これ。あげるわ」
「え?」
ボールチェーンのマスコットキャラクター。好きなアニメのマスコットだ!
あたしも差し出されたマスコットを受け取った。
「え?」
「ただやりたくてやっただけだから。要らないの」
あたしは顔を横に振った。
心臓がバクバクなる。彼女から目が離せない。
頭の中が彼女で――染まる。
「気に入らなかったら捨てても構わないわ」
左右の横に置かれていた大量の景品が入ったバッグを抱えるとよろめきながらゲーセンから出て行こうとした。それにあたしは咄嗟だった。自分でも驚く真似をしてしまった。
「めぐみん! ごめん!」
「あ。うん。行ってら」
あたしの訳わからない行動にめぐみんも苦笑して見送ってくれた。
正体の分からないキラキラした彼女をあたしは追い駆けたのだ。
「あの! もしよかったら!」
◆
一緒に遊んでいたはずが、うちは置いて行かれてしまった。訳の分からない女性。ううん。
あの子の正体はうちは知っている。それはもちろん、毎日会っているはずのももも同じだけど、ももは鈍感だからきっと当分は気づかないでしょう。
「桃山はるか」
教えるかどうかは悩みどころね。今は教えない。
うちからももを奪ったんだから当然よね?
「地味子は演技なのかなぁ」
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