#1 石田桃子のきらきら

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#1 石田桃子のきらきら

 あたしの人生は地味だった。ついたあだ名も【地味子】だった。でも。でも! 「あたしの人生はここからなのよ!」  地元から遠く離れた高校に受験をした。進学校だからそのまま大学にも通える素敵な場所だ。両親も親戚も、全てが教員や公務員というネームバリュー。お堅くてIQなんかもいい頭脳(プレーン)たち。あたしにとって無償の家庭教師になってくれたわ。どうしてもあたしは高校デビューがしたかった。今の環境を打開したかった。そのためなら、頼めるコネなんかの全てに頭を下げて、お涙頂戴の嘘を吐いて教わった。何もかも、たった一度きりの高校デビューのために頑張ったんだから! 寄宿舎つきを選択をしてやった! しかも大学までのエスカレーター式だなんて、あたしは頑張った! 頑張ったよ、本当に!  本来なら2人部屋だったのだが来るはずの同居人は来ずにあたしは悠々自適な一人暮らしになった。20畳のある部屋にベッドは二人分。学習机も二人分。クローバーも二人分。テレビは壁にそれぞれ二つ備え付けられていた。お風呂の中にもだ。 「なんかラブホみたぁ~~い」  お風呂に浸かってあたしは誰から聞いたか忘れたラブホの風呂にはテレビがついているというのを知っていたからそう吠えてみた。本当なのかなんてあたしには分からないけど、聞いた話しのままだと今のお風呂はラブホそのものだということになってあたしは意味もなく照れた。相手なんか産まれて15年間いないというのに。初恋もまだだというのにおかしな話しね。 「まぁ。地味子じゃなくなるんだしぃい? うふふ。本当のラブホに行く日も近いわね」  言ってて恥ずかしいけど、どうせ独り言。  世界が変わればこんな独り言なんか当たり前になるんだから! 「まずはぁ~~」  明るい髪色に自分で染めた。(学校に校則はないのを確認した)初めての毛染めにはパッケージの説明と携帯でググった。全てが初めてで正解なんかは分からない。だからあたしは誓う。友達なんかが出来たら一緒の美容室に通うって!そしてお互いを褒め合うの。なんて素敵な世界かしら! 真っ黒な髪なままなら出来はしない会話よね。  次にピアスを開けた。(学校に校則がないことを確認した)本当なら耳鼻科か整形科で開けた方がいいみたいだけどドラッグストアでピアスを開ける機器を店員のお姉さんに聞いて買った。もちろん、ググって。バクバクする心臓に深呼吸をして、思いっきりとぶっ刺した。痛かったけど、想像よりは痛くはなかったわ。近代科学の力に感謝よね。親や兄弟。他の親族が見たらどう想うのかしら。今からみんなの楽しみだわ。  最後にスカート丈を詰めた。(学校に校則なんかないことをかなり確認した)太ももの真ん中くらいの位置に縫ったわ。通販で買ったハンドミシンで頑張ったんだから! いつ解いてもすぐに縫えるようにね。  でも。  香水はダメ。マニュキュア(爪アクセ)はダメ。バイク並び車での登校禁止。  ゲームセンターでの遊戯は親同伴でなら可。19時以降は禁止。  割と細々とした規律はあった。  でも規則(ルール)を守るかと聞かれればどうだろうか。きっと守らないだろう。 「見学に来たときに上級生を見たら化粧なんかバリバリだったもんね。うふふ。」  あたしは学校生活に胸を躍らせた。  地味子だった時代なんか忘れようと。  ――したかったのにそうは問屋が許さない。 (どぉして。この人の横になっちゃったのかなぁ)  二学期。席替えが行われた。古き良き時代の名残の【くじ引き】でだ。  あたしにはクラスで唯一と目を背けるクラスメイトがいる。その人物は同性だ。  出来れば視界にいれたくなんかないのだ。何故なら。  真っ黒な髪はストレートで腰近くまであって二束を三つ編みに縛っている。前髪は長くて目の半分を隠し、その下から黒縁の眼鏡をかけている。そのレンズの奥の目はまつ毛が長く目も大きく若干と吊り上がっている。胸の膨らみは平べったい。スカート丈は膝下まである。  同じクラスになったときから意識的に【地味子】と名付けて視界の外に追い出していたのだ。あとは何よりも、昔の知り合いと同姓同名で彼女に失礼だと思った。だから【地味子】と脳内で名付けたんだ。  昔のあたしと重なる地味子に吐き気も起こる。同族嫌悪なのか。地味子を見ると気分が悪くなった。  その地味子の横があたしのこれからの席になってしまった訳だ。  助けてよ。 「ももぉ~~中間の勉強どうなのさ」 「めぐみん、まぢで詰んだ。全然なのよ」  オシャレで意気投合したクラスメイトの宇野恵(ウノメグミ)ちゃん。褐色で天パの白い髪は肩まであって一つにバレッタで束ねている。胸は16歳とは思えない凶器。Eカップの膨らみが制服を浮かせてお尻のように飛び出ていて視線が釘付けになってしまう。異性の抗えない気持ちが分からなくはないよ。でも恵ちゃんはものすごくいい子で擦れたものがない。オシャレだけどやることはやる子。家からスクールバスで通学する彼女の身を心配になる気持ちはまるで親のような感覚だわ。 「うちもなんか頭がっぱー~~ん! で勉強も手に着かないってゆーか。あ。ももぉー~~いっそのことさぁー~~」  にやりと楽しそうに笑う彼女のいう言葉があたしにはわかって「行く!」と親指でイイネ! をした。中間勉強をしなきゃいけない今だからこそ――遊びに行こう。  息抜きは必要っていわれたもの。
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