神花秘話

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「いいよ、おじさん。あたしが行くよ」  役人に働き手を取られることは、どこの家にとってもありがたい話ではない。  報酬が出るわけでもなく、入山そのものは一日とはいえ、行き帰りでさらに五日は家のことができなくなる。  明蓮としては、そろそろ自分の番だという気持ちがあった。  沐全がいやな笑顔で言った。 「当日は私も監督で行くからな、私の不名誉になるようなことはするなよ」  明蓮と同年代の沐全はくるりと背を向け、待たせていた馬車へと歩き去った。  馬車には最近結婚したばかりの夫人の姿がある。  結いあげた髪にはかんざしが光り、耳には貴石が下がり、絹衣をまとっている。  男とほとんど変わらない野良着姿の明蓮をわざとらしく眺めると、夫人は勝ち誇ったように微笑んだ。  沐全が乗りこんで夫人を抱きよせると同時に、馬車はすぐに走り去った。  隣人が吐き捨てた。 「あの野郎、明蓮に振られたからって腹いせか」  沐全に求婚されたのは、ほんの三か月前のことだ。  つりあわない、財産もない、と固辞したのだが、器量よしで働き者なところが気に入った、と押し切られた。  しかし、すぐに彼の狙いはわかった。  遊び好きで女好きの彼は、お飾りの妻に面倒事すべてを押しつけるつもりでいた。
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