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禁足地として庶民の立ち入りがきつく禁じられるその神山には、年に一度たった一日、神界の花が咲く。
人の世のものならぬ神界の花は、ただ美しいだけでなく、錬丹術の材料として万病を治し不老をもたらす薬となる。
この貴重きわまりない花を確実に採るために、花が咲く中秋の名月の日ばかりは、里ごとに割りあてられた人手が一斉に入山する。
「うちの里からは、おまえに行ってもらうのがよさそうだな、明蓮」
近辺の家々のまとめ役である里長の沐全は、皆が集まるなり、いきなり指名した。
明蓮本人は、黙っていた。
(やっぱりね)
どこかでこうなることは予想していた。
しかし集まった他の里人たちは一瞬ざわつき、視線を交わした。
この手の労役に駆り出されるのは、ふつう男と決まっている。
女でひとり暮らしの明蓮は、世帯主としてこの場に顔を出す義務があるとはいえ、あくまでも名目上のものという暗黙の了解があった。
首をすくめる里人たちのなか、明蓮の隣人がおそるおそる声をあげた。
「あのぅ、ですが里長、女の明蓮をあんな険しい山へ行かせるのはどうかと……」
「明蓮もこの里に家を持つ者だぞ。しかも仕事は山草採りだ。ちょうどいいだろう」
沐全が切り捨てるように言い、明蓮も隣人を止めた。
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