第二章:幼なじみとの微妙な距離

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「ほら、サークルの飲み会。今日の7時からって言ったでしょ」 「え、今日だっけ」  それは、例の野球観戦サークル主催の飲み会で、まだ入部を迷っている人も、そうじゃない人でも参加していいと聞いていて、大雅も真中たちと一緒に参加することが決まっていた。しまった。完全に忘れていた。 「もしかして予定あった?」 「いや、大丈夫。そっか楽しみだな!」 「楽しみなら忘れるなよ」 「ははは、ほんとだよなー!」  楽しみ。果たしてそうだろうか、と心の中で自問自答する。サークルの話を聞いたときは、自分の知らない世界にドキドキしたが、実際、日にちが決まると、だんだん面倒くさくなった。憂鬱すぎて、忘れたいと思っていたら、本当に忘れていて、それが今日だと思い出したせいで、気持ちが一気に沈んだ。自分とは違う世界の人間がたくさんいる場の中で、たいして興味のない話にその場の空気が悪くならない程度には相槌を打ったりする、最近の日常と同じような時間が流れる空間に行くのだ。  中には、気が合う相手が見つかるかもしれない。けれど、実際にそんな出会いがあったとしても、これからお互いを知っていく過程を考えただけでうんざりしてしまう。それが新しい出会い、新しい人間関係だというのに、なぜか、面倒くさいと思ってしまう。 「あ、次の授業、早めに行かないとだね」 「ああ、あいつ、教室来るの、早いんだよな」 「先行ってて、すぐ追いつく」 「うんわかった」  三人を見送って、自分も席を立つ。ラーメンは食べ終えていたが、食器を返却してから、そのあとペットボトルの水を買いに行きたいと思っていたので別行動にした。 「ん?」  食器を返却して、食堂を出ようとしたら、聞きなれた声がして、大雅は声のするほうを見た。そこには高校の同級生で同じ文芸部だった北川晴陽と南野千里が二人で向かい合って談笑をしていた。 「おーす」 「あ、ヒガシだ!」  近づいて声をかけると北川が嬉しそうに両手を振る。高校の時そのまんまの元気な姿で、吹き出しそうになる。卒業して一ヶ月程度じゃ何も変わらないと思うが、隣にいる南野はリネン地の薄い水色のシャツが少しおとなびてみえた。 「そっちはどうだ? 文学部」 「それがさー、ゼミの資料が多くて、死にそう」 「なんだよ、それ。晴陽、本読むの得意じゃなかったか?」 「好きな本は読めるけど、全然知らない人だし、論文だし、つまんない」 「そりゃ仕方ないだろ。勉強のために読むんだから」  そんな北川を南野は冷ややかに見つめている。この空間も高校の時と同じで、なんだか、ほっとする。もともと上松を含め、文芸部の面々とは読書の話で盛り上がり、部室に行くのが楽しみで、毎日が楽しかった。 「上松、元気してるか?」  だいたいこの二人と一緒にいるはずの上松の姿が見えないのでなにげなく聞いた。上松がいなかったので声をかけたというのもあるのだが。 「え、ヒガシ、うえまっちゃんと連絡とってないの?」 「ああ、まぁ」  大雅の返事に二人は顔を見合わせた。
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