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エピローグ:前途多難な三角関係
「大雅、おはよう」
「おっす」
いつもの席に座っていた大雅に、真中はいつもと同じように明るく声をかけてきた。
「昨日、悪かったな。キャンセル代、いくらだった?」
「ああ、それは大丈夫。それより、上松くんはどうだった?」
「心配なかったよ。たぶん今日から大学来てると思う」
今朝はいつも通り「おはよう」とラインが届いていた。ちなみに昨日の夜も「おやすみなさい」と届いていたので、どうやら平常通りに戻ったらしい。
「あ、それで、サークルのことなんだけどさ、やっぱり俺はやめとく」
「え、なんで?」
「いや、正直、今はあんまり交友関係広げたくないっていうか、大学慣れるまでは、こじんまりとしようかと思って」
「へぇ、俺はてっきり、恋人でもできたのかと思った」
「ないない。それはない!」
そもそもあいつが告白してこないから、だけど。
「じゃあ、好きな人もまだいない?」
「いないよ。いるわけないだろ、絶対に」
なんでこっちから好きって言わなきゃいけないんだ。
「じゃあ、俺もやめようかな」
「え、なんで? 昨日、楽しくなかったのか?」
「ううん、どっちかっていうと迷ってた。で、今決めた。やっぱりやめようって」
「どういう心境の変化なんだよ」
「ずっと気になる人がいてさ」
「マジ? 俺の知ってるやつ?
「うん、知ってる」
真中と自分との共通の人物って誰だろう。中学の同級生だろうか。
「え、待って。頭の中で誰か探してる?」
「ああ、中学んときの女子とか、思い出してる」
「無駄無駄、絶対わかんないよ」
「え、なんでだよ」
「だって東山だもん」
「……へ? 俺」
「うん、今の俺の好きなのは東山。おまえ」
今、なんて?
「実はさ、中学のときも気になってたんだけどまだお互い若かったしさ」
「いや、今でも若い、んじゃないの?」
大学生ってまだ若いと思っているのだが。
「こうして一緒にいて、やっぱり好きだなって思ったんだ。俺と付き合わない?」
「え、や、待って、俺、男だけど?」
「関係ないよ。好きな人がたまたま男だったってだけで」
真中があまりにもさらりと言うので、むしろ自分の方が間違っているかのような錯覚を受ける。男女の壁ってそんなに簡単に超えられるものだっけ。
「まー。突然、言われても焦るよね。じゃ気持ち知っててもらうだけでいいよ、俺は好きになってもらえるように頑張る」
「頑張るって、何を……」
「まだ、上松は告白してないよね?」
「それはまだ、だけど」
大雅は慌てて、はっと口を塞いだ。真中は気づいていたのか。
「じゃあ、まだ俺にだってチャンスはあるよね」
「チャンスって、なんかおかしくないか、それ」
「ヒガシくん!」
突然、呼ばれた声に慌てて振り返る。見慣れた男が教室に入ってきていた。
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