プロローグ:毎日、恋してたのだろうか

2/3
199人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
 大雅は、前回の続きから、更新された箇所を読み始める。今回の話は、恋人の横山が新しいスニーカーを買って、嬉しさのあまり縦野の部屋で履いて見せる。その姿が愛しくて頬にキスしたら、真っ赤になって頬をつねってきた。しかしそんな横山が愛しいという内容だった。ちょうど大雅も先週スニーカーを買ったばかりなので、横山の喜びは理解できる。 「小説っていうより、上松の日記なんだよな」    なぜなら、大雅も上松の部屋で、そのスニーカーを履いて、見せたからだ。もちろん頬にキスをされたわけではないが、時々、こうして大雅とのエピソードがネタとして描かれることがある。実際にあったことだとわかるのは大雅だけだし、大河の名前が出てるわけでもないので別に構わない。小説のネタになるくらいは、大したことではないので上松に対して特に文句を言ったこともない。  ただ、最近少し気になるのは、作中に出てくる、横山はどことなく性格が自分と似ていると言うことだ。横山は、ちゃんと自分の意見は伝えることができるハキハキとした性格だし、趣味が読書であることも、昔、野球をやっていたことも大雅と同じだ。そして相手の縦野は、あまり明るい性格ではないものの、同じく読書が趣味で、とにかく恋人の横山のことが愛しいと言うのが文章から伝わってくる。 「こいつは恋人のことが好きすぎるだろ」  縦野の目線で描かれる横山のエピソードは、はっきり言って惚気に近い。毎回読むたびに、砂糖を噛んだみたいな甘ったるい気持ちにさせられる。今回だって、横山に頬をつねられても、そんな仕草が可愛いというくらいだからどうしようもない。 「ん?」  大雅は頬をつねる、という行為に目を留め、思わず、話を遡る。大雅も上松の頬をつねる癖がある。そういえばこの主人公の恋人は事あるごとに、頬をつねる。作中では、それは暴力というよりも恥ずかしさ余って、という感じなのだが。 「ちょっと待てよ」  時々横山の行動が大雅と同じだと感じるのは、自分のエピソードがネタになっているのだから当たり前だと思うのだが、そういえばこの縦野はどことなく、上松に似ている気がしてきた。  大雅は慌てて、前回の更新分、その前に更新分に戻ってざっと読み直す。読めば読むほど縦野の台詞は全て上松の言いそうな言葉だ。そもそも二人が愛し合っているという時点で、自分達とは違うと最初から決めつけていたのだが、間違いない。縦野は、ほぼ上松だ。唯一違うのは、縦野が男を好きだと言うこと。 「まぁ、上松は男が好きなわけじゃないもんな」  と、声に出して、ふと気づく。なんでそう言い切れるんだ?
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!