第一章:優しい男との再会

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第一章:優しい男との再会

 結局、あのあと改めて毎恋を読み返したせいで、危うく電車の時間に乗り遅れるところだった。これは明らかに上松のせいだ。そして、同じ大学でもある上松から届いていたラインは「一緒に学校行こう」だったので既読スルーした。なんとなく、こんな気持ちのままで上松には会いたくない。  しかし、読み返してみて、これは大雅と付き合いたい上松の話の妄想なのだと思うと妙にしっくり来てしまった自分がいる。今までのエピソードで自分のエピソードでもなくても、横山の行動は、自分ならやりかねないと思う行動ばかりだったからだ。 「なんで、今まで気づかなかったんだ、俺は」  まだ人がまばらの教室で、大雅は、思わず頭を抱え、短い髪をガシガシと掻いた。 「隣、いい?」  はぁ、とため息をついていた大雅は慌てて声の主を見る。そこには細身の背の高い男性が立っていて、白いシャツに黒い細身のデニムがよく似合って、アッシュブラウンの長めの髪がすぐ近くの窓から差し込む光でキラキラと輝いていた。やや垂れ目の優しい眼差しが、大雅の返事を待っている。 「あ、ああ」  大雅は机の上に置いていた自分のリュックを掴み、足元に置く。周囲を見渡すと教室には他にも空いている席があるのに、わざわざ隣に座るなんて、窓際に座りたいのだろうか。 「東山大雅くん、だよね?」 「え、あ、そうだけど」  フルネームで尋ねられ、戸惑い、必死に脳内人物データベースをフル回転で検索する。こんなイケメンの知り合いがいたら、すぐに思い出しそうなものだが。 「ああ、わかんないと思う。俺、昔は坊主だったから」  男のヒントで、坊主だった中学野球部時代を思い出す。特徴的な優しい目元を思い出し、思わず大雅は「あっ」と声をあげた。 「もしかして、真中(まなか)か?」 「正解。思い出してくれてありがとう」  目元を緩ませて笑う笑顔に見覚えがあった。当時、野球部のキャプテンだった男のこの笑顔に、大雅は何度も救われたのだ。 「マジか、同じ大学だとはなー」 「俺は後ろ姿を見て、すぐに東山ってわかったけど。案外忘れないもんだな」 「そりゃ三年間ずっとベンチにいた背中だからな」  大雅は自虐的に笑った。真中俊輔(まなかしゅんすけ)といえば、大雅が所属していた野球部でキャプテンだっただけではなく、ピッチャーだった将来有望な選手だった。野球が上手いだけじゃなく、性格もよくて人気者だった。レギュラーになれずにいた自分を見捨てることなく、励まし続けてくれたのだから、大雅にとっても特別な存在でもある。
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