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「サークル? ああ、実は高校の時の野球部OBから誘われててさ」
「どんなサークル?」
「みんなで野球を観戦しようってサークル。そうだ、東山もどう?」
「へぇ、面白そうだな」
自分がやらなくなったとはいえ、野球は今でも好きだ。しかも観戦するだけなら楽でいいし、大人数で見るのは面白いかもしれない。
「そのサークル、女の子の部員もたくさんいてさ、いわゆる出会いを大切にするサークルってやつなんだけど」
「出会いを大切……」
「そのサークルの入部条件はフリーであることなんだ。言ってる意味わかる?」
要するに野球観戦を通じて、出会いを目的とした、いわゆるコンパサークルというものだろう。
「いや、俺、そういうのはちょっと」
「まぁあんまり難しく考えないでよ。俺も一緒に入るしさ」
「うーん」
大学生になれば、男女で出会う機会もあるかもしれないとは思っていたが、その機会がこんなに早く訪れるとは。
「確認なんだけどさ、東山って恋人とか好きな人がいたりする?」
「そーゆーのはいないけど」
だいたい今まで、そんな話とは全く無縁な高校生活を送ってきた。学校は男子校だったし、そもそも文芸部の仲間や同級生など、男同士で遊んでる方が楽しかったのもあり、恋人の存在を必要としなかったのもあるだろう。
環境が変われば新しい人間関係を構築することになり、時には恋人ができたりするのだろう。いつも大雅のそばにいた上松は文学部になって、あいつにも新しい出会いがあるかも――
「ヒガシくん!」
聴きなれた声で名前を呼ばれ、思わず声の方へ振り返る。
「上松?」
そこには上松と文芸部の仲間だった部長の北川、そして文芸部ではないが同じく仲が良かったクラスメイトの南野も隣にいた。しかしランチタイムで混雑している食堂で、上松はよく自分を見つけたものだ。
「今朝、寝坊しなかった? 返事がなかったから心配でー」
「めったに俺、寝坊しないだろーがよ」
テーブルに駆け寄ってきた上松の頬に、思わず手が伸びそうになったが思いとどまる。
「上松くん、だよね」
「え?」
隣にいた真中が上松に話しかけた。
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