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「もしかして真中、くん?」
「そう! よくわかったね」
意外にも上松はすぐに思い出したようだ。野球部に入っていなかった上松と真中の接点なんてなかった気がするのだが。
「偶然、同じ経済学部だったんだよ」
「そうなんだ」
「上松くんは文学部、かな?」
「そうです」
「なんか、そんな感じする。よく東山の部活が終わるまで図書室で待ってたよね」
「えっ、マジ?」
上松は照れくさそうに頷く。確かに上松は時々、大雅の部活が終わった頃に一緒に帰ろう、と声をかけにきたものだが、それまで図書室にいたなんて初耳だった。しかし真中はよくそんなことまで覚えたのか、と驚く。
「だから、俺、二人はてっきり付き合ってるんだと思ってた」
「はぁ? そんなわけあるかよ。俺たちは幼なじみで」
「うん、それは聞いてたけど、それにしてはあまりにも仲睦まじかったからさー」
「……」
真中の言葉を上松は黙って聞いている。一緒に否定してくれればいいのに、黙られてたら、まるで認めるみたいじゃないか。
――やっぱりお前って俺のことが?
「東山、そろそろ午後の授業が始まるから移動しようか」
「ああ、うん」
「あっ、あの、ヒガシくん」
立ち上がった大雅に上松が声をかけた。
「何?」
「あの、えっと……」
「一緒に帰ろうって話じゃないの?」
真中が二人の間に割って入ってくる。真中と上松は同じくらいの背で、二人とも大雅よりも背が高いので、なんだか挟まれているような光景になる。
「いいだろ、別に一緒に帰らなくても」
「そんなつれないこと言わないであげなよ。ねぇ、上松くん、東門がうちの校舎に一番近いんで、そこで待ち合わせしたらいいんじゃないかな。たぶん一年生は終わる時間同じだと思うし」
「じゃ……そこで待ってます」
「うん、ちゃんと連れていくから安心してね」
「おい、真中。俺の保護者みたいにいうな」
「え、まじ? そう聞こえた? じゃあ俺のことママって呼んでもいいんだぜ」
「アホか。なんでだよ」
大雅の言葉に、ははは、と明るく笑う真中の言葉にはもちろん裏表はないとわかる。けれど、できればまだ上松とは会いたくなかった。しかも今のやりとりで、上松の気持ちがますます垣間見えてしまって余計に気まずい。
自分たちはただの幼なじみに戻れるのだろうか――
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