第二章:幼なじみとの微妙な距離

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第二章:幼なじみとの微妙な距離

「……」 「……」  授業後、上松と校門を出てから駅に向かって歩き出して、もう10分近く会話がない。家が近所なのでしばらくこの状態かと思うと、先が思いやられる。  結局、授業後に校門に向かうと上松はちゃんと待っていた。校門までついてきた真中は上松に「ちゃんと連れてきたよ。じゃ、あとは二人でごゆっくり」と余計なひとことまで残した。  正直、今は上松には顔を合わせづらい。朝、上松の小説を読んで、こいつは自分に好意があるんじゃないか、なんて意識してしまってから、まだ心の整理がついていないのだから。  かといって、さらっと「おまえ、俺のこと好きなの?」なんて聞けるほど、自分は無神経ではない。曲がりなりにも幼なじみという自分たちの関係はこれから先、変わることはないと思っていたわけで、自分が何も気づかないふりをしていればいいだけのような気もしている。 「……くん、ヒガシくん」 「え? 何?」  自分の頭ひとつ上から、名前を呼ばれていたことに気づく。 「初日はどうだったって聞いたんだけど」 「あー、まぁ、まだオリエンテーリングだし、それよりは真中と昔の話、してたわ」 「そうだね、楽しそうだった」  上松の言い方に小さな棘がある気がした。 「そりゃ、久しぶりに会ったんだからそうなるだろ。で、おまえはどうなの。文芸部で一緒だった他のメンバーが同じ学部だから、高校の延長みたいな感じかもしれないけど」 「みんなそれぞれ勉強したいことは違うから受ける授業とか違うかな。僕は中国史とか面白そうだなーって思ってるんだけど」 「ふーん」 「あ、そういえばLINE返してなかったな。ちゃんと起きれたから。ちょっとバタバタしたけど」  本当は上松の小説を読み返してたせいだなんて絶対に言えない。 「ううん、僕のほうこそ、ヒガシくんはしっかりしてるから大丈夫だと思ってるんだけど、余計な心配してごめん」 「いや、それはいいんだけど」  小中高と一緒に過ごしてきたせいか、上松は自分の性格を把握している。今だって、朝が弱い自分のことを気にして連絡くれたんだろうけど、どうせできないんでしょ、と見下したような態度だと自分が不機嫌になるのを知ってて、ほどよい距離感も保ってくれる。とはいえ、実際、上松の連絡に助けられたこともあったわけだけど。  いつもそうなのだ。上松は自分が望む距離感でいつもいてくれている。くっつき過ぎず、かといって離れず、いつも声をかけてくるのは上松だ。それが、幼なじみの当たり前になって、慣れているからこそ、恋愛感情なんて、急に距離が縮まるようなことになるのは戸惑って当たり前だ。  中学のときは自分が野球部に入部したこともあり、上松とは少し疎遠になったが、高校のときは、同じ文芸部に入り、再び一緒にいる時間は長かった。じゃあ、大学はどうなるのだろう。幼なじみだって別に一緒にいなければいけないわけじゃない。
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