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魔女の家は森の奥深くにあった。小さな庭には、さまざまなハーブが植えられている。魔女のくせに、小人の家みたいにかわいらしい。
かすかに歌が聞こえてきた。聞き手なんて必要としていない、静かな歌。
「魔女さま、ぶどう酒をもってきました」
サラが意を決して声をかけると、一拍おいて扉が開いた。
「あら、ありがとう。あなたは――、サラさんだったかしら」
艶やかな黒髪を揺らしながら、魔女は微笑んだ。白い肌に、髪とドレスの黒が映える。きれいな女性……と思ったけれど、サラは首をぶんぶん振った。
魔女は怖い。特別な力をもっていて、悪魔と契約しているなんて噂もある。彼女の機嫌を損ねたら呪われるのだ。魔女の薬やまじないはよく効くらしいけれど、みんな彼女に近寄ろうとしなかった。
「あの、魔女さま、お代を――」
酒樽をテーブルに置き、さっさとお代をもらって立ち去ろうとしたサラだったが、口をぽかんと開けてしまった。魔女は吊り棚から、瓶詰めのハーブや花を取り出しているところだった。ミントにセージにタイム――、その種類の多さに圧倒された。
火にかけられた鍋からは、なにかが煎られた香りがする。
「さて、どこまで入れたんだったかしら。ミントを二枚、ホロの花を片手に半分、あとはお砂糖と、花の蜜と……ねえ、サラさんは甘いものがお好き?」
「え? はあ、好きですけど」
「わたしも好き。じゃあ蜜は多めに入れましょう」
「いや、あの、お代を」
呆気にとられるサラだったが、
――なにをつくっているんだろう。
気づけば、魔女の横に立って鍋を見下ろしていた。
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