弥子、忘れ物を届ける

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いよいよ視界が潤み始めた私の前を、道祖神(駅員さん)が通り過ぎた。 私は道祖神に縋った。 この手を話したら終わりだと直感した。 「ど、うしました?」 道祖神は少し引いている。 しかし一生懸命に事情を話すと、憐れんで、正しい改札口まで案内してくれたのだ。 歩いたら15分もかかった。 道祖神は私が改札を抜けるまで見送ってくれた。 彼に幸あれ。 こうして私は再び電車に乗り、無事に旦那様の会社の最寄り駅に辿り着いたのである。 「弥子!?」 笑顔の素敵な受付嬢におとないを入れると、旦那様はすぐに来てくれた。 旦那様はびっくりしている。 それもそうだろう。 走り回ったせいで髪はぼさぼさ、涙で目は赤く、何故かお稲荷さんや漬物のお店の紙袋を持っているのだから。 「ど、どうしたんだ」 「うっ」 旦那様を見た途端、ここまでの長い旅を思い出し、再び涙が溢れた。 「ご、ごめんなさいぃ。わたし、お弁当を、旦那様にっ」 「あ!そうか、忘れたのに気づいて」 「うん、うん!でも、上手くここまで来られなくて」 旦那様は首を傾げ、それから優しく微笑んだ。
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