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“ひらひら舞う雪 きらきらの希望 あなたは一人じゃない”
ラジオから流れる音。
拙い歌詞に拙い声。
紛れもなく、十五年前の私の歌。
「千歌・・・」
シャンパンに雫が落ちたのを見られたのか、夫が私を抱きしめる。
「ごめんな」
違う。
“ごめんな”なんて言われるような、そんな感情じゃない。
あの頃の私は、嘘をついていなかった。
今の蒼には分からないだろう。
昔の蒼でもきっと分からない。
昔の私の声が流れるリビング。
夫の腕の中にいることを忘れて目を閉じた。
涙の意味を誰にも知られることなく、私は明日も家族のためにせっせと食事を作り、大量の洗濯物を洗って干し、部屋の掃除をしながら家族の帰りを待つ。
そして夫は明日も人気アーティストのための曲を書き、娘の七海は外交官になるという夢に向かって勉強する。
七海に口酸っぱく「堅実な道を歩め」と言われている息子の和樹も、最近自分から「塾に行きたい」なんて言い出していた。
夫が寝たら、後でシャンパンを飲み直そう。
あの頃の私とグラスを合わせて。
未だ降り続ける窓の雪を眺めながら、特別な一日を祝福しよう。十五年後の今日、私の歌が誰かの心に届いたホワイトクリスマスを。
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