おでこをくっつける

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「直之、一緒になったね」  直之の姿を見つけた渉が、何事もなかったようにこちらに向かって駆けてきた。  動かなかったはずの体が、ようやく金縛りから解けたように重たい感覚を残したまま、さっき通り過ぎて行った後ろ姿へと振り返る。 「あいつ……誰?」 「えっ……?」 「さっき一緒にいたスーツの奴……誰なの?」 「あっ、見られてたんだ……」  恥ずかしそうに頬を赤くして視線を下げた渉に、何となくイラッとしてしまう。それは、きっと自分の見た事がない表情でそいつを見つめていたことへの苛立ちだろう。 「俺、帰るわ……」 「えっ、どうして……?」 「別に……とにかく、帰る」 「ちょっ、ちょっと待って……直之!」  こんなモヤモヤしたままカフェに行くとか、出来るわけない。  直之は、来た道を戻るために渉に背を向けると、足早に駅の方へ向かって歩き出す。  慌てた様子で、その後ろから渉が着いてくるのを感じながら、振り返ることはしない。  だって、今顔を見てしまったら――俺はまた渉を傷つけるようなことを言ってしまうから――……。 「ねえ、直之……ねえ、ねえってば!」  何度も直之の名前を呼ぶ渉を振り切るように、ただひたすら前に足を進めていく。  着いてくるな――今はとにかくお前の顔は見たくない――……いやっ、違う。そうじゃなくて――まともに見れなくなってしまっているから――……。  そのまま家に帰った直之は、自分の部屋のベッドにうつ伏せでダイブするとぎゅっと目を閉じる――。浮かんでくるのは、渉があの人に見せていたなんとも言えないハニかんだような甘い空気が漂うようなそんな表情で、かき消すように頭を振ると、掛け布団に顔が擦れて痛い――……。  もしかして、あの人が渉の気になっている人――なのかもしれない。 「っとに……バカ……」  小さくついて出た言葉は、とんだ勘違いをしていた自分への言葉だった。直之は心のどこかで、渉の気になっているのは自分だと信じていたからだ。そして、自分の中にあるその特別な感情に気づき始めていた。
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