耳の側で囁いて甘噛みする

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耳の側で囁いて甘噛みする

 お互いに好きだという言葉を伝えたわけではないけれど、仲直りをしたことで今まで以上に意識し始めているのは一目瞭然で、自然と笑顔が溢れていることにも気づいていた。 「仲直りしたんだね」 「ああ……」 「やっぱり、二人は一緒にいる方が華やかで良いね」 「華やかって……言い方な」 「だって、本当の事じゃん」 「でも、後押しされた部分もあるし、感謝してる。ありがとうな、馬渕さん」 「何かそんな風に言われると照れるな」  渉が来るのを食堂で待っていると、馬渕さんに声を掛けられた。素直に思っていることを伝えると、少し照れたように鼻の頭を掻いている。鬱陶しいと感じていた関係も、いつの間にか相談相手にまで昇格していて、不思議な感じがしていた。 「直之……」 「おっ、終わった?」 「うん。馬渕さん、久しぶりだね」 「田丸くん、久しぶり。じゃあ、あっちで莉乃が待ってるから行くね。二人とも、またね」  気を遣ってなのか、渉が現れたと同時に、馬渕さんは手を振って山瀬さんの元へ戻って行った。  そっと直之の隣の席へ腰を下ろすと、まだ目元を隠すくらい伸びたままの前髪の間からこちらに向けられている視線を捉えることができた。 「鬱陶しくないの?」 「髪?」 「そう。目がチカチカしそう」 「もう慣れたし……」 「ふーん……」  伸びすぎるのが嫌いで定期的に美容院へ行く直之には、渉のように前髪を目が隠れるほど伸ばしたことがない。流行りに敏感なわけではないけれど、一応それなりに気遣いをしているところはある。  でも、いい加減に前髪を通して見つめられるより、隠れないままの瞳を見たいって思うのだけれど――それは我儘になってしまうのだろうか? 「今日はカフェ寄っていこうか?」 「そうだね」  直之の問いかけに渉が一つ返事で頷いたのを確認すると、同じ講義を受けるために立ち上がり移動する。  講義室に着くと迷うことなく一番後ろの席に座り、肩が触れ合う距離まで近づくと、直之は机の上に腕を乗せてそのまま顔を伏せた。 「また寝るの?」 「だって、こうした方が渉を近くに感じれるから……」 「もう、バカ……」  チラリと視線だけ向けて答えると、恥ずかしさを隠すようにそっぽ向いてしまうけれど、その頬が赤くなっていることには気づいている?  でも、言った言葉に嘘なんてない。こうすることで、より渉の存在がそこにあると感じられる。だからこうしている時間もすごく大切なわけで――それに直之のために渉が真剣に講義を受けてくれている姿をチラ見するのが嫌いじゃない。  真っ直ぐに前を見ながら、要点をまとめるためにノートにペンを走らせる音を耳で拾いながら、そっと目を閉じた。
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